残酷な王と悲しみの王妃

残酷な王と悲しみの王妃

残酷な王と悲しみの王妃

大きな時代のうねりや変遷も、案外、個人の嫉妬や怒り、気まぐれな欲望が作ってきたのかもしれない。
「怖い絵」の著者である中野京子さんが描くヨーロッパ+ロシアの王妃たち。
「王国同士の結婚」=外交なので、愛だの恋だのは皆無。生まれた瞬間に婚約者が決まったり、婚約している間に相手の皇太子が亡くなったから、その父親と結婚するハメになったなんてこともあり。
衛生保健状況も悪い上に、近親結婚も多かったので、母子の死亡率がかなり高かったから、とにかく数生まないと世継ぎが途絶えるという世相。
世継ぎを生めないと、夫から斬首の刑を言い渡されたりもする。(もちろんなにかの冤罪にて)
条件と肖像画だけで結婚を決めてしまうから、実際に一緒にいてみると、ミスマッチな夫婦になることだって、ままあることで、王宮では寵姫が我が物顔で歩いているのに、正妃が修道院に追いやられていたりと、王妃はほんとに大変なのだ。
三行半をたたきつけて実家に帰ろうとしても、実家(国)は実家で手前の都合で追い返したりするし。




スコットランド王妃であったメアリー・スチュアートは、エリザベス1世と争って負けた。
でも、その過程で、ほんのちょっと気が利いたなら・・・ほんのちょっと先を読む力があったなら・・・ヨーロッパの勢力地図は激変していたかもしれないと著者は言う。



ロシアのイワン雷帝は、7人の王妃を持ったけど、彼女たちの運命は・・・王妃って生贄?と思えるようなものだ。
駄々こねて、教会にまで離婚を承諾させたり。



ドイツのゾフィア・ドロテア妃は、人生の2/3を幽閉されて、失意のうちに果てた。
追いやられた最初は、まさか何十年も残酷な王の仕打ちが続くなんて思わなかっただろう。王が怒る原因となる身分違いの恋(でっちあげの可能性あり)の相手である将校だって、王宮に入った後、出ていく姿を見た者はいないという幕を閉じている。



他に、スペイン・ハプスブルク家マルガリータテレサヘンリー8世妃のアン・ブーリンが取り上げられている。
いずれも、30〜50ページに収められるには非情な運命だ。
王妃にだって、今の女性と同じ感情があったはず。
すさまじい王と結婚してしまい、人間としての扱いを受けず(権力や身分という衣でかろうじて守られていただけ)、勢力争いの渦においては、常に毒を盛られる危険がつきまとう生きた屍のような人生を送る。
さっさと斬首された王妃は、かえって幸せだったのかもとさえ思えてしまう。
処刑が娯楽的な見世物だった時代でもあり(処刑された人をしばらく放置しておくこともあったとか)、当時生きていた人たちの人生観や命の考え方は現在とは恐ろしく違うのだろうし、悲劇のヒロインばかりじゃないはずだけど、身分ばかり高くてチェスの駒のような人生というのは、本当に残酷だ。
記録さえろくに残っていない王妃も山のようにいるのだろう。