女王たちのセックス 〜愛を求め続けた女たち〜

女王たちのセックス

女王たちのセックス

やや過激なタイトルだけど、内容は淫らでも下品でもない。
ポチョムキンは、ロシア女帝エカテリーナ2世との寝室で、側にあるベルで知らせ、家来に大砲を撃たせたとか。
ポチョムキン亡き後、エカテリーナはその性器を象ったものを造らせ、それがエルミタージュ美術館に残されているとか。
そんなエピソードも書かれているけれど、プリンセスたちが、ドレスや宝石などより、どんなに愛を欲しがっていたかという軌跡なのだ。





王族たちの結婚・・・その目的は、間違いなく「政治」だった。
プリンスやプリンセスは、国と国との利益のために会ったこともない相手と10代で添わされた。
1600年代などは家系の血を守るために、血縁関係者同志の結婚も多く、その結果、体や知力が未発達のプリンスもいた。早くから実母から引き離されて育てられ、歪んだ人格をもっているプリンスもいた。
そこへと嫁いだプリンセスが待っていた結婚生活。
お付の女官でさえスパイという策略・陰謀にまみれている王宮では、ゴミ箱からは捨てたはずの手紙が盗まれ、ベッドから不実の証拠が得られるのを窺う召使がいて、更に夫からの迫害を受けることも多かった。
プリンセスたちの姦通は、それらから逃れて女として幸せになるための必然だった。
欲に囚われた貴族たちは、決してそういったカップルを見逃さず、執拗に追い詰めた。





王の生殖機能が正常でない場合、女王は姦通を推奨さえされた。
複数名いる子供たちの中で、1名だけが王の子供で、他は側近の貴族との子だったり、大佐との子であったりする。
でも、不実の子があるとなると、真の王の子までその真実性が疑われてしまうことになるため、大佐とそっくりな女児が産まれようが、王は実子として王族に迎えるのだ。
王宮の誰もそれが虚実であることを知っていて、薄ら笑っていても、だ。
また女王が、恋人の子を王にも気付かれずに身ごもり、誰にもさとられずに出産することもある。
そのシナリオがすごい。





女王の愛を武器にする男達ももちろんいる。
その男達の後ろには、地位権力や財を得たい親族や派閥の多くの人間達が糸をひいている。
全てが勢力争い、政権争いにつながっているのだ。
生活に何の保障もない時代においては、自分の力(例え卑劣な手段であっても)や運を使って、財や地位を得るのはインモラルなことではなかったのかもしれない。





不倫でも純粋な愛もあった。
その先には、死か死ぬまで監禁状態の生活が待っていた。
ほとんど場合、奇跡は起こらず、時代の犠牲になった。





愛に溺れた女王が、軍事や政治に全く無能な者を最高司令官などの役職に任命してしまうこともあったようだ。
女王の愛が、国家を破滅させてしまうのだ。





不思議な三角関係のデンマーク王と女王カロリーネ・マティルデとストルーウンセ。
このケースでは、王までもが王侯貴族たちの欲の餌食になった。
性格異常で暴君であった王を見捨てて、姦通した女王マティルデだったが、その愛人ストルーウンセは、女王とともに政権を握った。
民にかかる重税を軽減し、裕福な人たちに税をかけ、街を整備し、貧しい人々のために病院を建てた。
王宮の無駄なポストも廃止した。
法律を整備し、望まれない子供が殺されるのを辞めさせた。
王は、面倒な国を治めるという仕事から解放され、女として愛せないマティルデと交わらなくてよくなったため、王妃と臣下の愛を歓迎する。
3人は、一緒に出かけることさえあるほどのバランスのよい三角関係を保っていたようだ。
そして、女王マティルデと愛人は民衆から絶大な支持を得た一方で、あらゆる権力を敵にまわすことになり、最後の最後まで愛を貫こうとしたのにも関わらず、とうとう卑劣な陰謀によって、絶望に追い込まれて引き裂かれた。
それを、正気を取り戻して真実を知った王は心から悲しんだ。




年表に「17○○年 ○○が即位した」とほんの1〜2行で書かれた出来事には、恐ろしく多くの人たちの人生が刻み込まれている。
高貴でありながら迫害された女たちの犠牲が塗りこまれている。
そういう歴史を変えたカップルたちの愛の軌跡が書かれているのだ。




王妃アン・ブーリン
王妃キャサリン・ハワード
ゾフィー・ドロテア
ピョートル大帝とエカテリーナ1世
女帝エリザヴェータと夜の皇帝
マリー・アントワネットとフェルゼン
ナポレオンの奔放な女性親族達
イギリス王妃キャロライン
イサベル2世
ヴィクトリア女王
ロシア皇后フィードロヴィナとラスプーチン
恋多きダイアナ


などが登場する。




一見華やかで、豪華で、高貴な不足のない生活にみえる王宮生活の中で、一番欲しいものが「愛」であるというのが、なんだか皮肉で、人間の核心を描いているように感じる。
そのもがきようは、半端でない。命がけ。




ナポレオンに、子を生めないという理由で離縁されたジョゼフィーヌは言う。




「ええ、わたくしは、マリー・アントワネットのイヤリングなどの高価な宝石を持っています。
ですが、皆様、わたくしの言う事を聞いてください。
光り輝くものを持っているという理由で、人を羨んではいけません。
そこに幸せはないのですから。」




シリーズとして、こういう本もあります。
「王たちのセックス」〜王に愛された女たちの歴史〜
「庶民たちのセックス」〜18世紀イギリスにみる性風俗