庭師が語るヴェルサイユ

庭師が語るヴェルサイユ

庭師が語るヴェルサイユ

ヴェルサイユ宮の庭園主任庭師30年の著者が、絢爛な宮殿ではなく、庭園という視点で歴史や人間模様、そして今を語る。
時の流れなど関係なく静かに佇んでいる庭に見えるけれど、あらゆる変化やスリル、愛憎や悲哀を受け止め、自然と闘い、また流行も取り入れられてきたそうだ。
著者いわく、「庭園で永久に変わらないのは石(石像など)だけだ」と。


人の目から逃れられるという点で、王や王妃の真の姿を見守り、貴族の逢引を隠し、現在の観光客の俗な行為に影を落としてくれた庭。
「へええ!」な話は多いみたい。
宮殿の敷地といっても広いので、ルイ15世は一部を女性を囲う場所にしたり。
庭園の扱いを知ることで、当時の王の人柄や私生活が見えてくる。
貴族(当時は仕事をしてはいけない規則になっていた)は暇なので、恋愛にもじっくり時間をかけていたらしく、庭園はその舞台でもあった。


現代の話もいっぱい。
主任庭師(庭園に住んでる)なので、幽霊出現、映画撮影エピソード、自殺・・・様々なイベントや事件と遭遇する。
世界中の要人が集まる場でもあり、ゴルバチョフレーガンシラク・・・フィデル・カストロも来たんだね。エリツィンにばったり会ったり。
裸で水浴する女性らがいて、幽霊かと思ったら、勝手に入り込んでテントを張っていた観光客だったり。
盛り上がってるカップルが近づいてくる芝刈り機に気がつかないとか。
宮殿の神話性が高いので、神経症患者も吸い寄せられる。
「私はxx夫人よ!」と言ってたりするんだって。
悲劇と同じくらい喜劇もあるんだね。



私たちにしてみれば、一生に一度しか行かないかもしれない観光地だけど、地元の人は毎日この庭園に通っていたりする。日々、何かが起きているんだね。
庭師の自伝的なエピソードや若気の至りも書かれていて、単なる解説じゃないところが楽しい(笑)





もちろん植物の話もおもしろい。
当時は、植物学が大変もてはやされていて、教養を示すものでもあったとのこと。
また、他国の植物をなんとかして庭園に根付かせたり、実をつけさせたりする情熱。
ルイ14世のイチジクへの執着心。


庭師の仕事は、伝統をひきずっていたため、比較的最近になって大きく変化した。
大戦後まで馬が活躍していたそうだ。
でも、やはりマニュアルや機械に頼るより、自らの経験で自然を見極めてきた庭師の方が腕が確からしい。
1本の木が成熟するのに何十年もかかるわけだから、通り一遍の情報や流行に振り回されていては良い庭は作れないんだろね。


マリー・アントワネットが、夏に日陰を作ってもらったか細い楢の若木が、現在ではトリアノン前の巨木。
時間の流れを凝縮したようなスポットだね。