航空運賃のカラクリ 〜半額チケットでなぜ儲かるのか〜

航空運賃のカラクリ―半額チケットでなぜ儲かるのか

航空運賃のカラクリ―半額チケットでなぜ儲かるのか

往年ますます複雑で種類が増えた航空運賃。
同じ便に乗っているのに、旅客によって払っている運賃がまちまちな状況は当たり前になった。
どうして、こんなに運賃形態が多いのか。
LCCは、どうしてあんなに安い運賃で採算がとれるのか。
航空アナリストである著者が、とても分かりやすく解説。
引用される様々なデータは、数値がはっきりしていて解説をしっかり裏付ける。


先日、成田−広島間を片道738円というオドロキ運賃の飛行機で飛んだ。
東京−ニューヨーク往復38,000円というチケットを見たこともある。
これを聞くと、「その飛行機、墜ちるんじゃないの?」という人もいるよね。
また、お盆や年末年始の運賃の高さに呆れたり、出張パックが安いから帰省に使う人がいたり。
そんな航空運賃のカラクリにナルホド!です。


昔、航空会社(世界中の支店を含む)が正しい発券をしているかを審査する仕事をしてたのだけど、その頃はそんなにたくさんの種類の運賃はなかった。
各国の事情や願いをほぼスルーしていたIATAの規定が牛耳っていたから。
でも今、航空会社たちは「一人の乗客からできるだけ利益をあげる」という発想を「利益を生んでくれる乗客とそうでない乗客がいることを前提に、フライト単位でできるだけ多くの収益をあげる」という方向に転換したらしい。
この発想の転換により、運賃は細分化され、飛行機が飛び立つまでに刻々と変化するという状況が生まれた。


運賃の変化には時代や技術の進化も大きく影響する。
欧州路線の所要時間短縮は劇的。
地磁気に影響されずに北極圏を飛べる機材の開発→ジェット機の出現→ソ連がシベリア上空を解放・・・
ときて、56時間から17時間に短縮された。
ロシアは、他国にない「上空通過料」を取るらしいけど。



ジャンボ機の出現で、1回の輸送量が増えてコストがぐんと下がった。
ところが、逆に大量の集客がうまくいかず、採算がとれないという時代もあったとか。
航空会社や旅行会社が集客マネジメントの力をつけ、飛行機が飛び立つ直前まで予約状況に合わせて、その時点で一番収益をあげられる運賃設定に変えていけるようになった。
ちなみに、航空会社が旅行会社に販売用の席を分配する際、販売実績が良かった店優先で良い席を渡すのだそうだ。
売り上げが小さい販売店は、希望しても、たくさんの席を確保できない仕組みになっているのだとか。




LCCが低コストと高い生産性を生み出すためのビジネスモデルの基本は、おもしろい。
乗った時に気付く点とそうでない点があるよ。
大手がハブ空港を使って、ネットワーク運用(多方面に乗り継ぎやすいタイムテーブルにして、1つの飛行機になるべくたくさん客を集めて搭乗率を上げる)をするのに反し、LCCは直行便に絞るのが原則。
使用機材は1つに統一して、整備マニュアルや補修部品の在庫軽減、パイロットの訓練もあれこれしなくてOK。
シートはエコノミーだけで、サービスも最低限。
それに、使用する空港は、空港使用料が安いところを選ぶ。
なるほど、だから地方路線が多いんだね。
そして、折り返し時間を短くして、機材の稼働時間をのばす。
大手の会社は、パイロットが持っている「免許」の種類に合わせて給与を決めているけど、LCCは実際に乗務した機種を基準に払う。人事給与体系も違うんだね。
社員に過酷な長時間勤務を課して人件費を下げたり、社員全員を自社の株主にして取締役にさせて、収益を上げていたという悪質な例もあるらしいけど。

LCCの視点の転換は、言われてみれば「そりゃ、そうだ」なポイントばかりなんだけど、法律や認可、そして既成概念が簡単にはクリアさせてくれないんだろね。
大手にファーストクラスができた経緯や、コストが気になっても廃止できない理由もおもしろい。
オーバーブッキングの各社の考え方の違いも。


国内線では、大手の採算ラインは搭乗率60%なのだそうだ。
それをクリアしていたはずの羽田−鹿児島線を打ち切ったスカイマークの理由。
運賃単価の低さを搭乗率で補っているLCCでは、採算ラインが70%になり、60%台では赤字路線になってしまうらしい。
一方で、赤字分を補てんするから撤退しないでくれと、県に頼まれているため、実収益を気にせず飛ばせる路線もあるとか。


そんなこんなで、1996年の運賃自由化以降、あたかも運賃が下がったかのように見えるけど、実はここにカラクリがあると。ナルホド!


空港使用料は、なんだかズルイなあ。
国内では成田空港が始めたそうだ。
なんと空港反対運動で開港が大幅に遅れたことで生じた損失を埋めるために考え出されたのだとか。
支払う運賃から使用料等は航空会社が支払うのに、更に別口で徴収する理不尽。
しかも、最初は現金で徴収していたのに、さすがに旅客から文句が出るので、運賃に組み込んでしまい、旅客は気付かないうちに支払っているシステムに切り替えてしまった。



そういえば、ある路線(日本−外国。直行便がない、乗継便)の価格を1ヶ月半位ずっと(1日に時間帯を変えて数度)観察してみたことがある。
タイミングによって、価格が数万円単位で移行することに気付き、何が影響しているのか気になったから。
結局決定的な理由は分からなかったけど、単に為替相場だけではないみたい。
月末決算は関係あるかも。
記録はとってないのだけど、その路線では年間で12〜35万円で価格変動し、私が見ていた期間では1日で3〜4万円動くこともあった。
航空券購入をギャンブルみたいに感じたよ。