銃・病原菌・鉄 〜1万3000年にわたる人類史の謎〜(下巻)

上巻に引き続き。

どうして、ヨーロッパ人が世界へ出て行って、アフリカやアメリカ、オーストラリアを支配したのか。
逆にアフリカ人がヨーロッパ人を征服することがなかった理由は?


南米人はヨーロッパ人が持ち込んだ疫病に壊滅的にやられたのに、ヨーロッパ人が南米の疫病にやられることがなかったのはなぜか。
水ぼうそうでも命を落として時代なんだよね)


高度な技術や道具が自然に生まれた地域と、他地域から持ち込まれるまで生まれなかった場所がある要因は?
高い技術が取り込まれたのに、その後技術を排除した地域があったとは。
中国も、条件からすれば世界を征服できたかもしれないのにできず、ヨーロッパが成せた理由には驚いた。
コロンブスの大航海は、あちこちにお願いして5回目にしてやっとOKをくれた支配者に出会えたからこそ実現できたんだね。


今こうして使っているPCのキーボード。
キー配列は効率的とはいえないのに、昔のままの配列を変えない。
この理由は、タイプライターの時代に隣接するキーを続けて打つとキーが絡まってしまったから、わざとよく使うキーを(右利きの人には使いづらい)左側のしかも力が弱い指の位置に配置し、タイピングのスピードが上がらないように工夫したものだとか。
技術的にその問題が解決してもなお配列を変えないのは、すでに60年以上この配列に慣れた人が輩出され、「経済を動かして」いるから。
歴史には、そんななにげない理由が大きく影響していることが多いみたい。


言語が生まれても、その集落の人数が少なすぎると技術者を支えたり、文字システムを発達させることができない。
何かが生まれれば、必ず発達するとは限らず、更に拡がる期間には地域それぞれの特徴によって数千年の差が出ることをこんなに分かりやすく示されると唸ってしまう。
1つ1つは私でも「なるほど!」とうなずける難易度だけど、年表でただ右から左へ推移していくだけの歴史の勉強や学問別・地域ごとに専門的に掘り下げても見えない、統合的に必然と偶然の絡み合いをほぐして初めて分かることが盛りだくさん。
「必要は発明の母」と言われるけれど、実際は偶然発明されたものを実用化するのに100年以上かかっていたり、まったく有効に使えなかったりもしていたという視点は、文化や技術が3次元的な絡まりの末に存在したことをとてもよく説明する事実だと思うし、歴史を学ぶ者が後付けの「伝説」(現時点での結果)に誘導されていることも実感させられた。


植物の栽培や動物の家畜化の説明にもすでに得ていた知識たちが結びついたような快感があった。
現在、こんなに動物がいても家畜化できているのはほんの数種類。
大昔からきっとあらゆる動物を家畜化しようと試みた結果がたったこれだけなんだよね。
馬や牛、豚が生息していなかったり、マラリヤなどの疫病で動物がすぐに死んでしまう地域では家畜をもつこと自体が発生しなかったし、外来者が試しても失敗してきた。
しかも成功した新しい生活システムは、ユーラシア大陸の東西にはスムーズに広まったけれど、北アメリカと南アメリカの間では伝わるのに数千年もかかっている。
西東と南北の情報の伝わり方の違いも明瞭でおもしろい。


古代スカンジナビア人がグリーンランドを入植したにも関わらず支配できなかったのは、グリーンランドではヨーロッパの進んだ食料生産や技術や政治システムが使えなかったから。
ヨーロッパの鉄器が北極圏の狩猟採集民の石器や骨器に勝てなかったんだよね。
新しいものもそのタイミングや地域がフィットしなければ、「進化」になれなかった。
「時間の経過=進化」じゃないんだよね。


メソポタミア人が紀元前2000年にはすでに、岩に含まれる天然アスファルトを暖めて何トンもの石油を抽出していたなんて驚いたよ。


こういった本が完成したことにも必然と偶然の絡まりを感じてしまう。
著者が「医学」「自然科学」「進化生理学」「分子生理学」「遺伝子学」「生物地理学」「環境地理学」「考古学」「人類学」「言語学」と幅広い学術に詳しく、そして文章を書くエネルギーを持った人であるという偶然の賜物だね。