イケアとスウェーデン〜福祉国家イメージの文化史〜

イケアとスウェーデン: 福祉国家イメージの文化史

イケアとスウェーデン: 福祉国家イメージの文化史

企業がブランド力をあげる手法の1つとして、「企業のストーリーを顧客や従業員に伝える」というのがある。
今ではそんなに珍しい方法ではないけれど、商品やサービスと同じくらいに顧客はストーリーに惹かれる。
会社の来歴やエピソードを組み合わせて、魅力的な社史を作成するビジネスもあるそうだ。
そのストーリー必ずしも真実ばかりではなく、あくまでも顧客に訴えたい像であることは顧客自身も知っている。
出来上がったストーリーに合わせて、会社を変えていくことだって(社長が変貌することさえも)大いにあるんだよね。
この本では、スウェーデンのイケアの成功物語ではなく、イケアがストーリーを作り、どんな風に活用していったから成功しているのかを分析する。


社長のカンプラードさんのイメージ「質素で飾り気がない。高級品不要で牧歌的。短所もいっぱい。スウェーデン大好き」を強調するのもブランド作りの一端と言えるかも。
本の中で、「社長はイケアのマスコット的」という表現があり納得。



ストーリーだけでなく、実地の戦略もしたたか。
行った経験がある人は分かると思うけど、クネクネとした通路は、顧客に予定外の品物への興味を喚起する。
「ルームセット」にもつい入ってみてしまう。
あのコンセプトは、部屋のように展示してある全てを買ってもらうことではなく、「全ては買えないけど、あの素敵な部屋にあった手ごろな価格の花瓶なら買える」といった流れの購買を促すらしい。
ルームセットの先に、その花瓶がたくさん積んである売り場を配置するという顧客の心の動きを誘導する作戦なんだね。



イケアは最初からスウェーデンを前面に出していたわけではないそうだ。
店舗ごとに取り扱い商品も違っていたとか。
でもスウェーデンらしくない商品を排除して、レストランではスウェディッシュなメニューを揃えて、イメージを作り上げていった。
グローバルを打ち出す企業が多い中、逆行してるともいえるね。
他国からすると「北欧」と一括りにしてしまうのがおもしろいところだけど、「北欧」としてスウェーデンが広まるなら、イケアにとってはたいしたことではないみたい。
更に、国自体がイケアという親善大使兼文化大使に大いに期待しているのもおもしろい。
模範国家という地位が危うくなってきた今、美しい福祉の国スウェーデンのイメージを強調する任務を背負ってるんだね。



打ち出す商品は、とにかく「安い」が大事。
デザインもコストで決まるのだそうだ。
原材料を切り詰め、最後の1mmも無駄にしない。残りものも活用。
輸送コストも抑えるため、パレットにきっちり収まるサイズにする。このパレットも配達後に持ち帰る輸送が不要になるよう使い捨て、且つ再利用できる素材。
徹底してるね。
低価格は、「いつか手に入れようと思うものと、今過ぎに欲しいものとを、妥協することなく分ける魔法の成分」だとか。
そして、その「安さ」の先に良い社会があるべきだという民主主義。
色々な暴露やパッシングもあったようだけどね。



イケアの主力商品である本棚「Billy」。
このBillyについての本が刊行されているらしく、読んでみたい。
Billyを擬人化して紹介し、ガールフレンドである「Bergsbo」(ベリスボー。幅広タイプの棚)などが登場。
他にも、Billyが好きなサンドウィッチのレシピやお勧めの本が紹介されたりと、擬人化したり、製造・原材料・開発エピソードを語ることで、1商品をドラマチックな存在として顧客に近づいて行くんだね。


イケアの商品の名付けにはルールがあるらしい。
ソファとコーヒーテーブルにはスウェーデンの地名。
テキスタイルにはデンマークの地名か女性の名前。
照明器具には海や湖の名前。
ベッドにはノルウェーの地名。
カーペットにはデンマークの地名。
いすに男性の名前やフィンランドの地名。
屋外用家具には北欧の島の名前。
子供向けの商品にはスウェーデン語の形容詞か動物の名前。

こういうルールの存在にも顧客は、企業にアイデンティティーを感じるよね。


イケアは、本流である企業理念にストーリーを盛り込んだだけでなく、デザインや商品開発、従業員教育など全てに支流となるストーリーを徹底して組み込んでいってる気がする。
本流と支流が編みこんだ巨大な三角地帯がイケアの揺るがない存在なのかも。
そして、それがスウェーデンという国と支えあう結果になってるんだね。