作家、音楽家、推理作家、芸術家の家

「作家」「音楽家」「芸術家」「推理作家」をそれぞれが住まう家という視点で紹介。
作品が世に出ることはあっても、その作品を生み出した家が人目に触れることは少ないと思う。
でも、少なからず作品に影響を与えていたり、その人の生き方を表していたりするので興味深い。
取材からこの本の刊行まで、さすがに結構時間を要しているので、その間に紹介された人の人生に変化があったり、亡くなっていることも。


なかなかOKとは言わないような方も応じてくれていて、すばらしい家ばかり。
仕事場兼自宅であることが多いので、居心地重視。
失礼ながら、文筆や芸術でこんなに豪奢な家に住めるのかと驚いてしまう。

「作家の家」

作家の家―創作の現場を訪ねて

作家の家―創作の現場を訪ねて

プロローグがマルグリット・デュラスで震えちゃった。
コクトーヘミングウェイウィリアム・フォークナー、マーク・トウェイン、ヴァージニア・ウルフ・・・
私が中2の時に捉えられたヘッセも。
文章にとって行間が大事であるように、作家にとって、住まいの空間は重要なのだろうな。
じっと座ってペンやタイプライターを動かすのに、こんなにスペースは要らないのではと思ってしまうのだけど、想像力はすごい勢いで駆け巡り、その疲れを癒すには作家の体の何十倍もの空気が必要なのだろう。
そして、空間こそが作家を充電してくれるものなのだろう。

と、思わせる家ばかり。
作家20名分。


一言で表現するなら、

無限大の想像力の充電器。



「音楽家の家」

音楽家の家: 名曲が生まれた場所を訪ねて

音楽家の家: 名曲が生まれた場所を訪ねて

いや、それ、宮殿だから。

みたいな。

「音楽家」と呼ばれた人たちが音楽を奏でる相手の文化、つまり貴族や高貴な人々であったためか、住まう屋敷の赴きもそんな感じ。
社交の場も兼ねている場合もあるしね。
華麗さと重厚さのランデブー。
楽家たちの紡ぎ出す音楽が在るべき空気。
楽家23名分の家たち。

一言で表現するなら、

演奏が始まる数秒前の完成された瀟洒な静寂。



「推理作家の家」

推理作家の家―名作のうまれた書斎を訪ねて

推理作家の家―名作のうまれた書斎を訪ねて

本が売れるって、こういうことなのか・・・と愕然とするような邸宅。
大成功した実業家か、貴族かという雰囲気も。
4畳半で書きながら、ツケで酒買ってウサばらし・・・みたいな昭和初期の文筆家を想像していたら、唖然としてしまう。
読者を驚かせることを生業としているだけあって、楽しむことを知っている家々。
でも、執筆の下調べや勉強をしているから、ちょっと研究室のような空気も。
精神的に参った時に瞑想するために、海から海水を引き込んだ瞑想ボックス(大型の焼却炉に見える)を作っている人も。
推理作家になるまでの遍歴がそれぞれで、議員を兼業していたり、保険代理業だったり、秘書や客室乗務員、エリザベス皇太后のお抱え騎手・・・実際に検死局で働いていた人も。
趣味も色々。
取材時の出来事や作家とのやりとりも書かれていて、とても楽しい。

作品は世の中を駆け巡っているけれど、推理作家自身が人前に出ることは少ないんじゃないかな。
それにしても、取材を行った南川三治郎さんって、作家の表情を引き出すのが上手い。
家の写真ももちろんだけど、人物がとても素敵。
推理作家30名分の家たち。

一言で表現するなら、


推理作家が一番アヤシイ。








「芸術家の家」

芸術家の家―作品の生まれる場所

芸術家の家―作品の生まれる場所

生きてる家。呼吸してる家。
描いたり、創ったり、彫ったりが終わり、完成したかのように見える作品にまた手を加え、色を塗り、削る。
秩序と秩序の間に情熱が潜んでいて、油断ならない雰囲気。
紹介されているのは、故人の家ばかりなのに。

モネの家には、日本画がいっぱい。
絵画だけでなく、美術全般を含めた芸術家14名の家たち。

一言で表現するなら、


絶対に完成しない家。