わが闘争(上)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

著者はあのヒトラー本人。
ナチス法により発売禁止処分になった。
自分の生い立ちから、政治に興味のなかった青年期、思考や思想、家族への想い。
悩みながら進み、そして政治活動への一歩の瞬間。
文章力はすごいけど、決して、自分の信者を増やすための自画自賛の伝記ではないよ。

ナチスの行ったことは許されないけれど、ヒトラーって、ほんとに頭のいい人だ。
私利私欲のために行動しない。
都知事選に立候補していたら、投票していたかも。
演説が上手いだけじゃなかったんだと再認識。

虚実や奢りを嫌い、人に翻弄されずに物事の本質を自分で勉強して見極める。
嫌な相手の差し出す配布物は、突き返す前にちゃんと検分する。
内容だけでなく、その配布物が生まれた経緯もきちんと調べる。
偏見を嫌い、ものすごく真面目で、正しいと感じるよ。
経済も産業も哲学も芸術も世論も教育も、極めて冷静に分析しつつ、情熱を持つ。
新聞読者の分類もおもしろい。
結婚や梅毒についても語る。

ヒトラーがここにいたなら、「この本を避ける前に、なぜ禁止されるのかを考えるべき」と言うんだろなあ。
政治が不安定な今、実はこの本から学ぶことは多いかも。
あの独裁政治が熱狂的歓迎を国民から受けたのは、国民がヒトラーの征服欲に乗せられて騙されたわけでなく、国民が望むものを提示したから。

でも、その思想に徹底した「民族主義」が確立した時、とてつもない悲劇へ進み始めた。
ユダヤ人排除の思想の経緯も分かった。
真面目な彼は、徹底的にやった。