シー・シェパードの正体

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産経新聞記者が「エコテロリスト」と呼ばれるシー・シェパードに迫る。
実際に代表者にインタビューしたりも。
彼らは自称「海洋生物のために命を賭けて闘う戦士たち」。
南極海で、日本の調査捕鯨を過激な手段で妨害してきたのも彼らだ。
船での体当たりやレーザー光線などの危険な武器までも用いて攻撃をしかけてきたり、船を沈めるなどの報復もするため、世界中で海賊的な存在となっている。
一方で、クジラ愛護のオーストラリアなどの国は、彼らを英雄扱いする。
憚らず彼らを応援し保護すべきだとする政治家がいるほど。
アメリカのアニマルプラネットという有料TVチャンネルは、シー・シェパード(=SS)の捕鯨妨害に同行して映像に記録し、更にヤラセや捏造を含めた編集で捕鯨を糾弾した「WHALE WARS」という番組を制作し、かなりの高視聴率・高収入を得ているそうだ。





この本を読んでいくと、正義ってなんだっけ?と揺らぐ。
法律もルールも、そしてマナーだって、お互いに気持ち良く過ごし、人間同士仲良くやっていために作られたもの。最大公約数的な平和を守るためのもの。
戦争にだってルールがあったりする。
つまり裏を返せば、リスクを顧みず、究極に自分の思い通りにしたければ、法もモラルも話し合いも一蹴して、自分だけの正義に適うことを貫き通してしまえばいいことになる。
目的や理由は違っていても、今起っている島の問題や世界での内戦がまさにそれじゃないかな。




SSは、その点が一貫していて、しかも緻密なリスク計算の上で行うらしい。
クルーになるための指南本「EARTHFORTH!]には「36ヶ条の教え」が書かれているそうだ。
・目標達成に向け、得点を稼ぐために、常に相手のトラブルにつけこめ
・自分の意図や動向については偽情報を流せ
・相手の目の前で作り話をでっちあげ、それが真実であると相手が信じるような手掛かりを残せ
・実存する神話をつまんで、自分自身の伝説を創造せよ。派手派手しいドラマを演出し、相手をだませ。
・人々の信頼を勝ち得るために犠牲者のフリをせよ

などなど。
翻訳者の悪感情を差し引いて読んだとしても、ものすごく嫌悪感が湧いてくる。
実際に、SSの船から調査船にクルーを忍び込ませた途端に、「クルーが日本調査団に拉致され乱暴されている」とSSが世界中に打電し、注目を引こうとしたこともあるそうだ。本当は、日本船では忍び込んだクルーの希望で天ぷらまでごちそうさせられていたのに。
そんな事実はすぐに明らかにされるのだけど、バレた後でワトソン船長はケロリとして「日本の残虐な捕鯨について、世界に注目させるという目的を果たすための芝居なんだから、仕方ないでしょ」と堂々としている。
卑劣だろうがなんだろうが、勝つ手段を心得ている。
ヤな人物でしょう?



でもね。
SSのボランティアクルーたちはお金のためでなく、メンバー登録期間だけだとしても、目的のために命も辞さない勢いで実際に行動しているんだよね。
妨害相手がケガをしたり命を落としても、大量のクジラたちを守れたなら、大したことじゃないとまで割り切る。
ハリウッドや音楽界のスターはこうした団体保護が好きだから、多額の寄付をするらしいけど、ボランティアで集まった現場のクルーは意志と行動が一致している。個人の利益のためでなく、海洋生物のために実際に危険な海に出て行く。
そこが英雄とされるポイント。
ワトソン船長がカリスマである理由。
これも理解できるんだよね。

私が日本人でなく、オーストラリア人だったら、SSを褒めているのかもしれない。




SSは、「代表であるポール・ワトソン船長中心としたカルト集団」で、クルーは「洗脳された信者」というイメージらしいけど、世界中の環境保護・動物愛護の精神を持つ人々の高い支持を得ているので、各国の捜査機関や法治でさえ、簡単にその活動を阻止できないでいる。
この団体の生い立ち、クルーの募集方法や実態も紹介されている。
グリーンピースとの関係・確執も根深い。(ワトソン船長は、元はグリーンピースのクルーだった)
SSの船籍を剥奪しても逮捕はしない国があったり、擁護する国があったり、法律で徹底的にSSを追い払う国があったりと色々なのだけど、この経緯や背景を知ると、なぜ南極にいる日本船が標的になりやすいかが分かる。
南極はどの国の法律も及ばないからなんだね。
また、日本を標的にすると寄付金が集まりやすいという理由もあるとか。




SSでは、どんどんクルーを募集し、メンバーを入れ替えているらしい。
そうすれば、SSの悪いところが分からないうちに離れていってくれて、また、新しい信者を増やすことができるからというのが筆者の読み。
そして、離れていった過激な行動を喜びをもって行うことを覚えた若者たちが、新たな場でどんな行動を起こすかを懸念している。





生き物が好きな私は、SSの活動の主旨も強い信念も理解できる。
クジラもイルカも大量のアザラシも殺したくないし、絶滅しそうなクロマグロをわざわざ食べようとも思わない。
食文化が地域で異なるのは当たり前で、自分の地域と違うものを食べているからといって非難する気にはならないけれど、こんなにも豊かな食生活を営む日本が捕鯨を続ける理由として「伝統的な食文化」を挙げるのは、地球人としては恥ずかしい気もする。
和歌山のイルカ漁をテーマにした映画「ザ・コーヴ」が外国人スタッフに隠し撮りで撮影され、2009年度第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞などを受賞したのも仕方ないかなと。
映画はまだ観ていないのだけど。
(映画では事実と違う内容もあるため、日本人が怒っているという状況もあるそうな)





最速・最短で地球の生き物を守るため、人間同士のルールを捨てたシー・シェパード
これを勇敢とするか、卑劣とするか。
私は、即答ができないでいるよ。