銀の匙

銀の匙 (岩波文庫)

銀の匙 (岩波文庫)

読み始めて知ったのだけど、この本を中学校の3年間をかけて読み込むという授業をした先生がいるそうな。
公立校のすべり止め的存在だった灘校を「東大合格日本一」に育てた伝説の教師:橋本先生だそうだ。



薄っぺらい文庫本。
だけど、本のあちこちで立ち止まり、まだ「原型」だった頃の自分に引き留められる。
共感ともちょっと違うんだな。



あかんぼから幼児になって、無意識と自覚の間を行ったりきたりしていた時代の自分とか。
原型に少しずついろんなものが被さり、感受性が原型とは似てもにつかない形への憧れを持たせたりした、幼児から青年期の自分とか。




この本が書かれた時代に、つぶやけるSNSもなし。
あるとすれば日記くらいだったけれども、これも文字が書けるほど成長した後でないとだめだし。
自分の内面から外に出ていって、他人に知られるはずなんてなかった想いや感触が、文字になっている。
大人が想像して書いた子どもの感情ではなくて、子どもに戻って書いている感じがするんだよね。
だから、そこにある経験は自分のものとは全く違うのに、ジワジワと掴まってしまう。



主人公はやたらと泣く男子だ。
青年にさしかかる時期でも一人泣いている。


いつも大人に守られてきた主人公が、大人の哀しさを知っていく場面もある。
字の読み書きができないばあやが、自分の夢や浮かんだ謎を人に頼んで書いてもらっているという帳面を見せてくれるシーンがある。
見てみると、頼まれた書き手は、ばあやが読めないのをいいことに頼まれたことを書いていないことが分かる。
それでも、ばあやは、書いてくれたものと信じている内容を主人公に「こんなことがありました」と帳面を見せてくれながら話すのだ。



イジメの場面もある。



私が小学校3年生だった頃、1年かけて「ジャンバルジャン物語」を音読してくれた担任の大園先生。
今はどうしておられるかしら。