静かな生活

静かな生活

静かな生活

久しぶりに心を掴まれちゃった気がする。
でも、周囲の人に「おもしろいから、読んでみて」と勧める本とは、ちょっと違う。
共感を得られる自信もない。



「ピンチ」を迎えた父は海外で生活することになり、母も同行。
残された兄妹弟の生活。
兄イーヨーは、脳に障害をもち、てんかんの発作が心配である。
作曲の才能を持ち、まっすぐで真面目な性格だ。独特のユーモアもある。
妹マーちゃんは、二十歳の女子大生。
彼女は3人の日常を父母への報告書的な「家としての日記」もつづっている。
弟おーちゃんは、大学受験生の秀才くんで、淡々と自分の日々を送っている。



イーヨーのキャラに引き付けられる。
彼の作った曲を聞いてみたくなる。
曲名が良くてね。その曲名を聞いた周囲の者たちは、純粋なイーヨーの心情をあれこれ深読みして、勝手に悩んじゃったりするんだけど、家族ならではという感じで「ある、ある!」ってつぶやいてしまう。
父母のいない間、保護者的な役割をするのがマーちゃんだけど、でも家族のつながりって、年功序列の上下関係じゃない。双方向なんだよね。
我が道を行くおーちゃんだって。



清い兄も内向的な妹も、それぞれお年頃なので、性的な出来事にも巻き込まれる。
他人の悪意に気付かず、ピンチに陥る時もある。
その解決が、静かであるゆえの強さみたいな。
熱くもクールでもないんだけど、ユーモアさえ漂っていて、気が緩むと泣けそうになる。




解説を書いているのが伊丹十三で、彼は著者である大江健三郎の妹と結婚している。
この解説がおもしろい。
日本では、大江文学は難しいとされているけど海外ではそんなことはなく、むしろ、海外ではサザエさんや寅さんの方がよっぽど難しいそうな。この作品を映画化するにあたってのエピソードも。
そうだ、映画の方も観てみよう。