働かないアリに意義がある

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

常に動き回っていて、昼寝しているところなど見たことないアリ。
「アリとキリギリス」などのお話からも「アリは働き者」というイメージが強い。

しかーし。


実は、アリ社会の7割がぼーっとしたのんびり屋で、1割は一生全く働かないのだそうだ。
しかもその8割の存在が、実は社会をうまく運用していくのに欠かせないことが観察実験や研究から分かったとのこと。
これが、人間にも当てはまりそうで、すごくおもしろいよ。
不思議なことに、この8割の法則は、組織が大きくても小さくても当てはまるそうな。



「反応閾値モデル」という仮説は、フットワークが軽いか、腰が重いかという話。
働き者の個体は、仕事に対してすぐに反応し、動く。
ところが、腰の重い個体は、必要に迫られてやっと動き出す。
この動き始める時間差が、社会全体のエネルギー効率を良くしているとのこと。
全員がすぐに動き始めたら、無駄にエネルギーを消費してしまうし、疲れて動けなくなるのも同じタイミングになるので、緊急事態発生の時、対応できるものがいなくなってしまう。
ここで重要なのは、腰が重いからといって、怠け者ではないということ。
単に腰が重いだけで、「やろうと思った時には、もう仕事がなかった!」な存在なのだ。
彼らの存在は、社会で欠かせないというのがこの本の主題。



アリの世界の「老若」はシビア。
人間だと、若いうちは外で働き、年をとれば隠居。
でも、アリは違う。
若いうちは、巣の中で子育て等の重要ミッションをこなし、歳をとると外に出て、えさ探しという過酷で危険な仕事をすることになる。
余命短いアリを安全な巣の中に入れておくより、外に追いやった方がコロニー全体にとって効率が良いということらしい。



コロニー(組織)のサイズとワーカー(労働者)の特性の関係には驚く。
コロニーが小さく、ワーカーも少ない場合、ワーカーの動きはゆったりとしていて、単独行動も多い。
そして、体の作りが精密で、パーツの狂いが少ないのが特徴だそうだ。
一方、コロニーが大きく、ワーカーが多いと、ワーカーの動きが速く、行列を作るなどの社会的行動が多くなる。
体の作りは、コスト?がかけられておらず、粗雑で様々。
大きくて複雑な組織では、いろんな個性が揃っていた方が、その場に合わせた人材(アリ材)を適材適所に配置することが可能ということらしい。


体の大きい兵隊アリの存在もおもしろいよ。
「兵隊アリ」なんて、人間が勝手につけた呼び名なんだね。
主な仕事は大きな餌を運びやすい大きさにかみ砕くこと。
その仕事の最中に、餌を横どりする敵が来たって、闘わない。さっさと逃げる。
大きな体を育てるためにどれだけコストがかかったと思っているんだ!ちっぽけなエサなどのために敵にやられてないで、とっとと逃げろ!という理由らしい。



生物学では、子孫を残して自分の遺伝子を伝える割合を「適応度」と言うそうだけど、子を生まなくても、間接的にでも血縁者に深く関わることで遺伝が発生する「包括適応度」にも着目しているとのこと。
アリやハチの社会では、まさにこの包括適応度を高めることで成り立っているのかも。