ナチを欺いた死体~英国の奇策・ミンスミート作戦の真実
- 作者: ベン・マッキンタイアー,小林朋則
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/10/22
- メディア: 単行本
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近くのサルデーニャ島かギリシャから攻めると偽装するのが目的。
この作戦のために、「重大機密情報の手紙を持っている将校が事故によって溺死し、スペインに流れ着いた」という設定を作る。
どうやって、この将校の遺体を用意したか。
いかにスペインからドイツ軍にうまくこの遺体の持っている情報を伝えさせ、信じさせるか。
正直なところ、戦争って、こんなことのためにこれほどのエネルギーと知識を注ぎ込ませるのかと呆れてしまった。
しかも、最後は欺瞞に欺瞞を重ねる神頼み的な成り行き。
いくら風の方向を調べつくしたからといって、飛ばした風船が目的地まで行って、結びつけた手紙を届けてくれるなんて保障はない。
この作戦は、この風船に近いような気がするのだけれども・・・
たとえ戦争時代で遺体はあふれ、そして軍の指令といえども、作戦用に使うからと条件に合っている遺体を調達してくることは難しい。
自国の将校名簿は、スパイによって敵国も持っているはずなので、存在しない将校をなんとかして存在したかのように仕上げていかなければならない。
存在の真実味を出すために、架空の家族関係や婚約者をも作り上げる。
手紙やコンサートのチケットも偽造や他人が行ったものを手に入れ、遺体に持たせる。
お金も持たせるのだけど、当時、通貨の動きは、人や情報がどのように動いているかを知るためのカギとなるため、自分のところにある通貨の番号を控えておくなど、とにかく異様なほど情報に敏感。
スパイにスパイを重ねる二重スパイも珍しくなく、欺瞞に満ちている環境なので、適当な偽装ではすぐに見破られてしまうのだ。
「完璧に見えるものはすべて偽物」という言葉に、読んでいるだけでも息苦しさを感じてしまう。
当時の検死の技術もかなり高くなっていて、この重要ミッションを背負った遺体が作戦の道具であることが見破られないかが、作戦成功のポイントなのだ。
「重大機密情報」が書かれている手紙が水の中に長い間あった場合、乾かした時にどのように反り返るかなど、ちょっとした探偵物語より現実はすさまじい。
エキサイティングな戦争実話というより、欺瞞に満ちた戦争時代の怖さを感じちゃったな。