恋する落語〜男と女のいろはづくし〜

恋する落語―男と女のいろはづくし

恋する落語―男と女のいろはづくし

恋なんて、本人たちは大まじめだけど、傍からみたら滑稽なんだろな。
そんなネタを容赦ない落語が拾ったら、そりゃ笑っちゃう。
くだらなさが、おもしろすぎる。



この本は、落語を含む各演劇の台本を書いたり、邦楽の作詞、演出を行う著者の選で、男女の心模様を描いた噺を紹介。
いろはにほへと順で、たとえば、


い 幾代太夫・捲き米屋の清造(幾代餅より)
ろ ろくろ首のお嬢様・与太郎(ろくろ首より)
を 小野小町深草少将(道灌より)
ゆ 夢に出てくる美女・半ちゃん(浮世床


と並ぶ。



「ほ」の「本郷二丁目八百屋久兵衛娘 七・小姓の吉三郎」では、有名な八百屋お七の恋を取り上げる。
吉三郎に会いたいがため、放火してしまうお七。




これがホントの燃える恋



ときた。




当時、放火は重罪だったため、お七は鈴が森で火あぶりの刑に処せられてしまう。
一方、お七の死を知った吉三郎は、池に身を投げて死ぬ。





お七と吉三郎が抱き合うと、ジューと音がする。
火で死んだお七と水で死んだ吉三郎がくっつくから。
いや、違う。
七と三がくっついたから、十だ。




もうほんとにくだらない。
たまらない。
著者自身、文章で説明しているうちに「意味、わかんねえ!」。
紹介される内容もおもしろいのだけど、著者の文自体も落語っぽい。





「へ」の弁財天・六人の神々(羽団扇)では、宝船の状況に言及する。
ただ一人の女性で、全裸で同乗する美女・弁財天をめぐって争いそうなものだが、さすが神々。
つつがなく旅は続く。
むしろ1つの船でヒンズー教道教、仏教などの宗教戦争が起こる方がこわいね。





江戸時代では、男性より女性がずっと少ない上に、あまり屋外へ出ないから、恋愛のチャンスはとても少ない。
結婚なんて、男性が経済的社会的信頼を得たら、誰かが縁談をもってきて初めてできるものであって、「恋愛結婚」なんて言葉自体が江戸時代にはなかったそうだ。
また、衆道が僧侶や武士の間では普通のことで、むしろ奨励されていたとか、男女に関わる文化がたくさん紹介されている。



あとがきの「恋をしましょう。」という呼びかけがいいよ。
恋をすれば、人に優しくなれます。
相手の気持ちを思い遣る心を養えます。
恰好よく見られたいと思えば、己を磨いて努力する。


なるほどね。