14階段ー検証新潟少女9年2ヶ月監禁事件ー

14階段ー検証新潟少女9年2ヶ月監禁事件ー

14階段ー検証新潟少女9年2ヶ月監禁事件ー

9年2カ月・・・監禁事件としては最長。
当時10歳だった少女が誘拐されて、新潟の民家の2階に監禁され、その部屋から一歩も出ることができなかった歳月。
民家の階下には、犯人である佐藤宣行の母親が同居していたにも関わらず気付かなかった、と。
少女もその家に他の住人がいることを知らなかったそうだ。


母親は、2階へのたった14階の階段を上ることを息子に許されなかった。
少女は、1階へのたった14段の階段を下りる気力も奪われた。



助けを求める声をあげれば、聞こえただろし(外の人がそばまで来ていた)、家の扉にカギだって閉まっていなかった。
縛られていたのも、最初のうちだけだったらしい。


少女は、実は監禁生活が居心地よかったのか?
これは監禁事件では、珍しいことではないようで、暴力によって服従させられ、あらゆる脅しを長期にわたって受けると、「逃げよう」ということさえ考えることができなくなり、監禁者のいいなりになって自分の命を守ることしかなくなってしまうのだそうだ。



母親は、息子の異変に気付かなかったのか?
息子が引きこもる2階にはトイレはないし、食事だって2人分作らされていたのに。
(事件発覚後、ビニール袋に入れられた汚物が大量に出てきた。袋のそばの壁はアンモニアで剥がれていた)




母親もこの監禁よりずっと前から暴力で服従させられていたのだ。
彼女は、普段からその階段を見ることさえできないほどに息子を恐れていた。
息子に競馬新聞やアイドル雑誌を買いに行かされ、雑誌が汚れていたりすると、息子は暴れた。




でも、この本では、「事件は引きこもりの暴力息子の仕業でした」では終わらない。




なにかが気持ち悪いのだ。




母親がヘン。





息子が大変な事件を犯し、自分もあれだけ暴力をふるわれたにも関わらず、著者の質問どころか裁判官の問いにもノラリクラリを交わすような対応をする。
母親は、優秀な保険外交員でもあったので、頭の回転も速く、人とのコミュニケーションは得意であるのに。




写真雑誌フライデーの記者をしていた著者は、事件を追う途中で記者を辞めた。
被害者の人権を踏みにじってでもスクープをとるというその仕事になんの違和感をも持たなかったのに、この事件をきっかけに辞めることになったのだが、しばらくしてもこの事件が気になり、再度、母親に接近し、インタビューを試みたのだった。



インタビューが進み、息子の異常さが露見するにつれ、浮き彫りになってきたのは、すでに亡くなった父親だった。
再婚であった父親は、母親と親子ほどの差があり、息子を溺愛していた。
お金も家も家族もそして愛情も揃っていたのに、どこかで捻じれ始めた家庭。
事件を解明するって、こういうことなんじゃないかな。





現在、塀の中にいる佐藤宣行は、反省の言葉を語っているそうだ。
しかし。
「競馬なんて、不謹慎だからもうやめる」と言っていたはずなのに、母親への手紙には、競馬新聞を持ってくるよう要求している。
収監先での不平不満が並び、しかも少女への執着心が見える。
「自分の要求が通らない」世界を今でも受け入れられずにいるのではないか?
あと数年で14年の刑期を終えて、佐藤宣行は出所する。