世界を変えた6つの飲み物

世界を変えた6つの飲み物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史

世界を変えた6つの飲み物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史

6つの飲み物とは、ビール・ワイン・蒸留酒・コーヒー・紅茶・コーラ。
紀元前4000年頃のメソポタミアの遺跡で見つかった絵文字には、大きな陶製のかめからストローでビールを飲む2人が描かれている。
アメリカの詩人ジョン・チアーディは、「発酵と文明は切っても切れない仲だ」と言っている。
驚いたのは、この6つの飲み物は、各々が勝手に生まれて発達したのではないということ。
それぞれの飲み物の誕生には関連があり、世界に広まったのも理由がある。
地理や気候だけじゃなくて、国交や経済、情報、コミュニティの誕生・・・みんな、こんなに飲み物をほしがっていたんだね。
そして、現代の経済・ビジネスに予想を超える影響を与えている。
この本のおもしろさは、解説の言葉を借りると



飲み物を単なるモノとしてではなく、歴史を絶えず動かしてきたコトとして活写したことだ。




<ビール>

紀元前3000〜2000年代のメソポタミアの記録には、20種類以上のビールについての記録がある。
古代のビールは、ホップを使わないものらしい。
サハラ以南のアフリカ各地には、古代ビールに近いと思われるビールが今でも飲まれているんだって。
どろりとした濁ったもので、原料はソルガムとキビまたは、トウモロコシが多い。
この原料をおかゆにし、すっぱくなるまで置いてから、ソルガム麦芽を加えて大きな容器に入れておく。
そうすると、発泡し、アルコール化する。
これを濾してから飲むとのこと。
アフリカのは白くて、ヨーグルトのような酸味があるのに対し、古代エジプトメソポタミア人が飲んでいたビールは、透明か半透明らしい。



<ワイン>
ワインをそのまま飲んでも大丈夫なのは、酒神ディオニュソスだけだ信じられていたようで、古代ギリシヤ人たちは必ずワインを水で薄めて飲んでいたそうだ。
そのまま飲んだら、凶暴になったり、発狂すると。
黒海北部の遊牧民スキタイ人は、そのままワインを飲んでいたので野蛮民族とされていた。
かといって、ワインを全く飲まないことは、そのまま飲むのと同じくらい悪いこととみなされていたらしい。
おそらく、ワインには病原菌がいないだけでなく、自然の抗菌物質が含まれているから、消毒・浄化力があることを知っていたのだろうとのこと。



蒸留酒
蒸留酒のことを「スピリッツ」という理由も書かれている。
もともと薬として広まっていったアルコール。
スピリッツの語源はギリシヤ語「プネウマ」(精気)からきており、体内の生理現象を司るものと考えられていたそうだ。




<コーヒー>
それまで朝食でも、弱いビールかワインが飲まれるのが、常識だったそうだ。
汚染された水を飲むより安全だから。
それなのに、ワインに代わってコーヒーが17世紀のヨーロッパで受け入れられるようになった理由。
それは、


朝から、頭がすっきり冴えていられる。



当時は、みんなアル中だったんだろか・・・



コーヒーが普及されたおかげで、仕事の質も能率も格段に向上したと。
当たり前でしょ!!!と現代なら、怒られそうだけどね。
でもね、酔いを醒ますためにコーヒーを飲むのはマチガイらしいよ。
コーヒーを飲むと、血液中からアルコールが抜けるのが遅くなるそうだ。
へええ。
コーヒー発祥の物語も書かれているよ。
そのうち、コーヒーを飲むためのコーヒーハウスができ、これが政治的討論や会合、情報収集の場として確立していった。
人々は、コーヒーハウスでコーヒーを買うことで、「会話」も買ったのだと著者は言う。
社交的・知的・商業的・政治的な会話を買ったのだ。
そんなに存在感を得たコーヒーについて、反対する輩もいるわけで(特にアルコールを売っていた商人)、法王が「飲んでもよい」と決定を下すような歴史的出来事まで起きている。
そして、フランス革命が始まった1789年の決起集会の絵画も、たしかに場所はカフェなのだ。


このコーヒーハウス文化がよく分かる形で残っているのが、コーヒーチェーン店。
インターネットカフェなどだね。
シアトルが、世界最大のソフトウェアとインターネット会社の拠点であり、スターバックス・コーヒーの本拠地であるのは、もっともなことなのだと。
コーヒーは単なる嗜好品ではなく、確信や理性やネットワークを生み出した飲み物だと説く。




ただ、広まった当時のコーヒーはガロン単位で課税されていたため、あらかじめ大量に作っておくことになり、時間の経ったまずいコーヒーをみんながすすっていたことが想像されるそうだ。






<紅茶>
お茶は、イギリス文化の中心にまでなっていったけれど、最初はお茶がどうやって作られるのかはイギリス人にも分かっていなかったそうだ。
「忽然と広東港に茶箱が現れる」という認識だったとか。
コーヒーハウスは男性しか入れないし、かといって高価なお茶を買うお金を使用人に預けて買いに行かせるのは不安だし・・・
という時に、あのトワイニングさんが登場。
お店で、茶を売りつつ、その場で飲むこともできるようにしたのだ。
ちなみに、高貴なお茶文化が広まるにつれ、ウェッジウッドのようなカップの陶磁器商業も栄えたけれど、もともとのカップは、中国から茶葉を輸送する船において、船の安定を良くするために船底に積んでいたものを使ったというのが由来らしい。
お茶にミルクを入れるようになったのも、健康ややけど防止という理由の他に、磁器を保護するためということもあったそうだ。
お茶はじきに低所得者にも飲めるものになり、抗菌成分のあるお茶を飲む習慣ができたことで、なんと赤痢などの水を媒介してうつる病気が激減したとのこと。
母乳にも良い影響となったため、乳児の死亡率も低下。
お茶の普及で、保健が良くなり、良い労働力をたくさん供給できるようになったなんて、びっくり。


<コーラ>
1896年のコカ・コ−ラの宣伝文句がこれだそうだ。

もっと、もっと強くなる!
コーラを飲むと、みんな強くなる。
すっきり、すっきりする!
コーラを飲むと、頭がすっきりする。



たしかに、コーラの原料は、その名の通り、コカ(コカイン)だからね。
コカイン成分は、20世紀初めに取り除かれたそうだけど、コカの葉の成分は今でも入っているんだって。
最初は薬として売られていたんだね。
それも薄めずコーラ液だけで売っていたから(薄めるのは購入元)、質が均一に保ちやすかったし、販売価格や瓶代も省けた。
ペプシ・コーラは、値段はそのままに量を2倍にして販売したので、売り上げを上げることに成功したそうだ。
両者の対決についても書かれている。
おもしろかったのは、「アメリカが持ってきた飲み物なんて飲んでたら、周囲から何言われるかわからん」というソ連の軍事リーダーであるジューコフ将軍。
アイゼンハワーに勧められたコーラが気に入ってしまい、



ウォッカに見えるように、無色透明のコーラを作ってもらえんかな?」



と依頼したらしい。
もちろん、政府の要請を受け、トルーマン大統領の承認ももらって、コカ・コーラ社は透明のコーラを作って送ったのだそうだ。
そこまで、やるのか。




ほんとに食文化は人間文化。
特に嗜好品は、人間のHappyを背負ってるから、おもしろいエピソードが目白押し。