ソロモンと奇妙な患者たち

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ドリトル先生みたいな、温かくてやさしい、愛の温室のようなイメージ



ではない。




いえ、もちろん、やさしい。
この野村潤一郎獣医は、愛の温度が常時沸点のような人だ。




動物たちとの心温まるふれあいやエピソードで泣かせようという主旨の本ではない。
動物と自分の間に言い訳的なものを置かず、あくまでも動物の嗅覚・聴覚・神経・・・そして気持ちになって、動物の命に尊厳を与えてる感じかな。
預かった命に責任を持つ姿勢がすごい。
そのために、365日無休。
食事は、1日1度。必要最低限の栄養を摂る。
いつでも診療できるよう、何十年もアルコールは口にしていない。
海外出張も日帰り。
遊びの旅行や温泉なんて、行かない。
結婚してるけど、子どもは作らない。
大変ストイックな生活に見えるけど、野村先生が望んでやっていること。




くそ真面目な、動物愛護団体の権化のような人ではありません。
レアなペットのマニアでもある。




ブルトンくん(北米産のアリゲーター・スナッパー)は、甲長70cm、体重30kgの体躯。
「大きくてもノロいんでしょ?」と彼の目の前で手をヒラヒラさせたアナタ。





指がなくなるでしょう。





怪獣映画「大怪獣ガメラ」のモデルになったカメなのだから。
野村先生の言葉を借りると、「超・凶暴で、超・バカ」なこのカメは、その強力な嘴で高価な大型水槽に横穴をブチ開け、動物用温室を水浸しにすること3回、セラミック製の水中ヒーターをかみ砕くこと20回以上、しかも水槽の掃除や甲羅のコケ落としのたびに本気で戦いを挑んでくるらしい。




野村先生は、日本で流通している生き物はほとんど全て飼ったことがあるそうだ。
現在飼っているのは120種類ほど。マニアックな生物も数多い。
そして、飼ったことがない生き物は診察しない。
知りもしない生き物を参考書をさらっと読んだだけで、知った顔していじくりまわすなんてことは絶対にしないのだ。
病院の設備もハンパじゃない。
未来世界の映画セットみたい。


フェレットが日本でペットになった火付け役は、この先生の仲間だそうだ。
大蝙蝠のタキオン、中国鰐蜥蜴、南米角蛙、グリーンパイソン。
サソリの子育てはすごいなあ。
巨大熱帯魚の自己主張。



異常な犬好き。犬は、「ペット」ではなく、パートナーだ。
先生は、結構毒舌なので、生き物が好きでない人やあまり考えずにペットを飼っている人が読んだら、気を悪くするかも。
「女性も犬を愛するようになったら、真の優しさがにじみ出るようになって魅力的になり、腐った心で外観ばかり着飾った生きたマネキンみたいな女どもにうんざりしている、心身ともに逞しい本物の男たちが貴女を放っておかないだろう」ときたもんだ。



飼い主と飼われた犬の種類のミスマッチの例には笑った。
ボディガードが必要な人にセッター(この手の猟犬は、初対面の人にでも懐く)
・訓練競技会に燃える飼い主にチャウチャウ(元は食用犬。忠誠心に欠ける)



などなど。



野村先生のドーベルマンであるリーラ(本が書かれた当時)の章は、好きだなあ。
獣医になったきっかけ、腐った獣医の世界への絶望、それでも獣医だ!という想いを書いた章も、妙に感動を煽ろうなどとはしていないようだけれど、「カリスマ獣医」と呼ばれる理由がなんだか分かる。





タイトルにある「ソロモン」は、白いシマスカンク。
凶器ともいえる肛門腺からの催涙ガスは、アメリカのブリーダーによって除去されているけれど、だからといって、キュートなフワフワの身体を抱きしめようなどとしてはいけない。
スカンクはそれを喜ばないから。
「カワイイ〜〜〜♪♪」「チュキ、チュキ」となでまわすこともしない。
生き物をその居住地から移して飼育する以上、最大限に自分の元で心地よい思いをさせるための努力を惜しまない。
本当に身を粉にする。
言葉通り人生をかけて仕事をしているから、自信がある。
ナルシズムも上等だ。



生き物マニア仲間もすばらしい。
型破り。おもしろすぎ。ある意味、変態かも。
人間主体の常識では、とても叶わない大きな愛がある。
大きいのは愛だけでなく、なぜか身体も大きいマッチョ系が多いらしく(野村先生は違うみたいだけど)、その道の男性に好まれやすいから、エピソードは動物ネタだけではない。



うおーっと、仲間たちと車で繰り出す姿は、クレイジーケンバンドも顔負けである。



しかも、車は、スーパーカーを何台も持っている。
行く先は、飲み会ではない。




真夜中開催のアルコールなしの焼き肉大会だったりする。
真っ暗闇の夜の山での生物観察だったりする。
そんな時も自然の邪魔をしないよう、極力心を砕く。




本を読んでいた時は、野村先生がマスコミにも登場するカリスマ獣医だということは知らなかったけど、つい野村先生のブログをブックマークしてしまった。
私の考える先生の実像とブログに書き込まれているコメントに、なんだか温度差というか、深さの差というか・・・そんなものを感じてしまうのだけど、ブログは楽しみ。
  *動物の腫瘍摘出手術の様子などが画像付きで掲載されていることもあるので、苦手な人は注意です。