或る「小倉日記伝」 傑作短編集(一)

或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

松本清張生誕100年ということで、なんだか賑わっています。
実は、私はそのことに気付いたのは遅くて、この本を読んで知りました。
しかし、新聞では、ほら。


朝日新聞の記者であったためか、すごいね。
生活の糧を得るための「仕方なく」的な記者仕事だったとも聞きますが、小説家として立ったのは41歳とか。



個人的には、サスペンスや推理というイメージが強かった清張作品ですが、この三部作の短編集は「現代小説」「歴史小説」「推理小説」に分かれており、今、私はこの「現代小説」に唸ったところ。
話の骨格がとてもしっかりしているからこそ、細部の変化、見えないナイフで人生が切り刻まれていく様が、読者に共振するかのように伝わってきます。
言葉や文章も分かりやすく、一人の人間の人生という葉っぱが川を下ってきて、抗えない流れに押され、二度と抜け出せないよどみに入っていくのが、いやな感じでじっくりと見えてしまうのです。




芥川賞を受賞した「或る『小倉日記』伝」では、体は歪み、口角からはよだれを流している等の身体に障害がある青年が主人公。
しかしながら、優れた見識と粘り強さで、姿を消した森鴎外の「小倉日記」の再製作業を続ける青年と、その息子のサポートに人生を捧げる母親が登場します。
美談であるはずのこの話の終結
青年は、幸福なのか、不幸なのか。




「赤い糸」では、米軍の「お相手」を選ばなくてはならなくなり、婦人たちにくじびきをしてもらったら、憧れの女性がそのくじをひいてしまった。
その結果、2人の軍人の人生が、滑稽かつ残酷な結果を迎えます。



いずれも主人公は、結局、幸せだったのか、不幸だったのか考えされられます。
意見が分かれそう。
真面目さ・一途さが、人生において、滑稽なものに変貌してしまう残酷さ。
がんばりが、最初から「負」を背負っていることに気付かない残酷さ。
どの短編にもそんな川のよどみを感じます。
「サスペンス」ものではないのに、緊迫感があるのです。
全12編。



福岡県にある「松本清張記念館」は、かなり見応えが。
清張の家模型の実物大が作られ、その断面から執筆生活を窺えるようになっています。
書庫がすごい。
とても個人蔵とは思えない。
信頼を得た人間にだけ見せるユーモアなど、人柄も紹介されています。



映画「点と線」、観に行ってみようかな。