豪憲はなぜ殺されたのか

豪憲はなぜ殺されたのか

豪憲はなぜ殺されたのか

畠山鈴香
日本中に知れ渡った名前なのではないだろうか。
衝撃的な事件だった。
子供が殺されたというだけでも、気持ちがつらくて、その事件に関する記事を読む気になれなくなる私でも、様々なマスコミによる報道から動向が伝わってきた。


秋田県藤里町の連続児童殺害事件」
平成18年4月9日畠山彩香ちゃん殺害。
5月17日米山豪憲くん殺害。。
マスコミに縁などなかった静かな町に、この一連の事件で何十もの取材が張り付く日々が訪れた。



自分の娘が行方不明になったと通報し、不安な母を演ずる畠山鈴香
娘が川で遺体となって発見され、悲しみくれる母。
事故として処理されそうな娘の死を、事件に違いないと、自作のビラまで配布して再捜査を要求する母。
2件先に住んでいる豪憲くんが行方不明になり、「気持ちが分かるから」と捜索に協力する娘を失くした母。
豪憲くん殺害を認めた狂母。
そして、自分の娘も実は自分自身の手で殺めていたことを認めた殺人者。
逮捕されてからも、つじつまの合わない供述を更に二転三転させ、捜査を混乱させる。
うその塊。
育児放棄の実態。
モラルや人間性に訴えて、2人の小さな犠牲者のために事件を解決しようとする周囲の空気も全く理解せず、自分が主役となった舞台で演じ続けているかのような取調べ。



殺人鬼というよりは、人間の容姿をもちながら、人間としての感性を極端に欠いていることへの言いようの無い恐怖が湧き上がったのを覚えている。



この本は、殺された豪憲くんの父親が書いたもの。
表紙には、鈴香の娘である彩香ちゃんも一緒の豪憲くんの写真が載っている。
本の内容は、読む前から予想していた通りだ。
豪憲くんの生い立ちや写真・家族との思い出・親として忘れられないエピソード。
食が細くて、間食が多かったり、時にはすねてみたり。
負けん気が強くて、マラソンをがんばったり。
本当に普通の男の子だ。
その子の父親が、事件の内側に立つ者としての目線で、あの時の状況を記録している。



事件が展開し、マスコミが押し寄せそうになると、被害者対策の警察官と臨床心理士がきて、発表するコメントを考えるよう促したりするんだね。
知らなかった。
普段からの鈴香の奇異な言動や事件時の様子、孤独な子供時代にも触れている。
それから、手薄な警察な捜査について。
この父親が自分の足で聞き込みをして分かった重要な証言などが、どうして警察には拾えなかったのか。
父親は、家族の永遠に放たれることのない悲しみをなんとか整理し、伝えたいという思いから書いている。




こんな事件が起きた時、親はどうなるのか。
私は、裁判に被害者や身内が参加できるようなった今、残された家族がどんな想いで裁判に立ち向かうのかを知るためにも読んでみようと思った。



事実を知りたい。
本当の事を知りたい。
なぜ自分の子供が殺されたのか。
どうやって首を絞めたのか。
子供は苦しみながら死んだのか。
息絶える時はどんな表情をしていたのか。
犯人にしか分からない息子のことを知りたい。



真実が分かるまで抱え続ける苦しみ。
とても冷静な文章で書かれているけれど、「子供を殺された親が冷静でいなければならない」という状況を思うだけでも、こちらまでつらい気持ちになる。
犯人がどんなに反省して、悔やんだとしても、親の思いの100万分の1にしかならないだろう。
父親は、「鈴香のような人間は、あちこちにいるはずだ」と言う。
こんな事件が起きる前に、命を奪われるよりも怖い「悲しみ地獄」の存在を知るべきだ。