まことに残念ですが・・・不朽の名作への「不採用通知」160選

まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選 (徳間文庫)

まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選 (徳間文庫)

何につけても、この言葉がくれば、結論を知ったも同然だ。
だけど、このフレーズがついてるなら、まだマシかもしれない。
世の中には、容赦のない断り方もあるものだ。



この本は、小説家が出版社に原稿を送って、断られた時の言葉を集めたものだ。
しかも、対象となった小説たちは、いまや名作と呼ばれるものばかり。
時を越えて、多くの読者を持つ小説も、最初は何十社という出版社から原稿をつき返された経験があり、やっと出版してくれる会社に出会えたという幸運の上にこの世に残っているようだ。
この本には、断り文句だけでなく、断った出版社や雑誌名まで掲載されている。
もちろん当人の許可を得て。
なんだか不思議な感覚だね。




中には、どの出版社からも断られ、最後に著者の母親が自費出版し、大ヒットしたというのもある。




送った原稿に対していつまでたっても返信がなく、しかも原稿が返ってこないので、出版社に連絡して、やっと返してもらったエドワード・フィッツジェラルド

仕方なく、自費出版したら、大ヒット。




そして、ある人は、大ヒットした後で、わざと同じ内容の小説を、タイトルと著者名だけを変えて、出版社に送ってみるという試みをした。
結果は、却下だったそうだ。




本が世に出るためには、運をつかみ取らないといけないんだねえ。




読んでると、自分が断られっぱなしになってるような状態になるわけで、精神衛生上あまりよろしくないのだけれど、さすがに出版社や編集者だけあって、断り方がおもしろかったりもする。
残酷さの中にウィットがあったりするのだ。
現在では、ビジネス上で断るならば、マニュアルがあったりして、相手を傷つけないように(逆ギレされないよう)、穏便に(周囲への影響を拡げぬよう)断る事が推奨されているけれど、ここに並べられている言葉を読む限り、けんかを売っているのか?おまえは何者だ!くらいの勢いなのである。




例えば、私は未読なんだけど、


「愛へ戻る旅路」メアリ・H・クラーク

への出版拒否の言葉。


「われわれも、彼女の夫同様、ヒロインの退屈さに耐えられなかった。」





チャタレイ夫人の恋人」D・H・ロレンス

へは、


「ご自身のためにも、これを発表するのはおやめなさい。」





悪魔の辞典」のアンブローズ・ビアスの「兵隊と市民の物語」に対しては、



「総じて忌まわしく、不快感を催させる。・・・あまりに残酷すぎるため、よき芸術作品にもよき文学作品にもなりえない。これはリアリズムの勝利である。・・・ただし、意味も象徴性もないリアリズムの。」




ガンジー」ウィリアム・シャイラー


「目もあてられない」





「春の奔流」アーネスト・ヘミングウェイ


もし当社にこれを出版する気があるのだとしたら、ごく穏やかにいっても、極端な趣味の悪さゆえであろう。



ううぅ・・・




ところどころに、小説家たちのエピソードが書かれていて、これもなかなかおもしろい。
イギリスの作家ジョージ・オーウェルは、かなり早く定年退職できて、年金で優雅に暮らしながら小説を書くことに専念したいという夢が叶えられる職業に就く。
それは、当時イギリス領であったインドの警察官。
そして、めでたく、とっとと定年退職し、小説を書いて暮らしたそうな。



とにかく小説家って、我慢強いんだなー。