エボラ―殺人ウイルスが初めて人類を襲った日

エボラ―殺人ウイルスが初めて人類を襲った日

エボラ―殺人ウイルスが初めて人類を襲った日

「自分はどんな風な死に方をするだろう」と考える時、人が一番逃れたいであろう死に方を運んでくる病がある。





39度を越える高熱。
息をするだけでも、ハンマーで殴られるような痛み。
口の中は、瘡だらけで水も飲めない。
何も出てこなくなるまで胃は逆流を繰り返す。
体の穴という穴から、血の混じった泡のような液体を垂れ流す。
動けなくなった体は、血便や黒便にまみれて悪臭を放つ。
生きている間の人格も尊厳も努力も愛も、すべてをウイルスに食い尽くされてしまうのかと思わせるような死に様。





それが、エボラ出血熱






このウイルスが、1976年に世界で初めて発覚し、ザイールのヤンブクで猛威をふるい、何百人もの命を奪った時の話だ。
実話と実在する人物を基に描かれている。






感染経路も分からず、どんな薬も効かない初めての凶暴なウイルス。
患者に誰も近づけない。
自らが生み出せる全ての汚物に埋もれて、痛みによって変貌させられた形相で、生きた屍は最後の溜息のような一呼吸をもって、やっと本物の屍になれるのだ。







初期症状が出て、屍になるまでが、たったの1週間。
月曜日の朝、頭痛や吐き気がしたら、次の月曜日はもう来ない。
発症したら、90%以上の確率で死んでしまう。
奇跡的に回復した数名から血清を採り、なんとか食い止めようとするのだけれど、それ以前に、黒人・白人の意識の違いやそれぞれの宗教、そして黒人の先祖への想いや儀式などが、病を拡げる手助けをしてしまうことがある。
地元の長老呪術師が、白人の医療に見切りをつけて逃げ出してきた感染女性と未感染女性たちに刃物で切り傷を与える儀式を執り行ったところ、感染者の血がついた刃物は、未感染者にウイルスを送り込んでしまう。
数日後、女性たちの様子を見に行った呪術師は、目をそむけるようなウジの山に火を放つしかなくなる。






食い止めるための手段を調べるために、ウイルスをWHOを介して欧米の研究機関に送ろうとするのだけれど、実情を伝える手段さえ乏しく、対応すべき医師団(対応手段も分からないままだけど)がザイールに入るまでが大変な行程だ。
一度、ヘリコプタでザイールに来た医師は、病院で働く伝道団のシスター(感染の可能性がある)に「近寄るな」と指示を出し、完全防備で菌の採取だけして、誰にも何にも触れないようにして去ってしまった。
まだ発症していないのに隔離された人たちの恐怖。






関係のない、遠い暑い国の病気と思っていたけど、そうではない。
そして、病気と政治が密接な関係を持つことを再確認する。
国家の健康が、国民の健康を左右する。
また、温暖化となっていく地球では、熱い国の病も北に移動するのではないかと思う。





ちなみにこのエボラ出血熱は、猛威を振るった後、忽然と姿を消し、また3年後に別の地域で暴れる。
1995年にもまた姿を見せ、どこに潜んでいるのかまだ分からないのだそうだ。






この本は、図書館でなぜか何度も私の目にとまり、しかたなく?借りたけど、読まずに返してしまったこともあった。
あまりに目に付くので、とうとう読むことにしたら、なんだか、もう・・・
読んだ直後は、家族が「頭痛がする」と言っただけで、ちょっとドキリとしてしまうほどだった。
本の終わりの部分は、伝道所のベルギー人シスターの生き方に焦点をあてている。
ヤンブクでの生活と、そこから使命を捨てて逃げ出した自分を見つめている。
ただのパニック本ではないよ。