愛された悪女と愛されない美女 & 映画:「王の男」

(まえがきより抜粋)

いつの時代にも、女性は武器を使わず、己自身の知恵と度胸だけで戦ってきた。
道具を用いるのは、まるで男にだけ与えられた特権だとでもいうように、彼らは常に、それを駆使してきた。そして、それらの、危険で安易な道具が女性達の手に与えられる事は終ぞなかった。
だが、あまりにも道具を過信し、それに頼りすぎた揚げ句、男達のひきおこした戦争が、なにも持たない女性たちに対してなにを齎(もたら)したか。
男たちのように陽気な殺戮に走らぬ分、女の戦いは、ときに想像を絶するほど陰湿なものになることも多かった。中には、男達でさえ目を背けるほどの残忍さを発揮した女もいるほどである。

日本で悪女として有名な「北条政子」。
自分の権力維持のため、我が子を殺す事も厭わなかったとされ、夫の愛人に嫉妬して、その住居を打ち壊すことまでやっている。




そんなの生ぬるいっ!!! 
(by 呂后




国史の女達は、王や権力者である夫の死後、自らが権力の座に就くこともあるのだけれど、そうなった時、夫の愛人をどう扱ったか?
まさに



「料理」




してしまうのだ。
女同士の策謀と確執が、陰湿に超ポジティブ。
ゆるぎない男尊女卑が何百年、何千年と続くであろうことを自ずと察知し、うまく男と共存しながら、血脈を太くしていった女もいる。





権力や若さにともなう美だけでなく、永遠の愛を「項羽」から得る事ができた「虞美人」。
美男美女のゆるがない愛情は、悲しい最期を迎えるが、後世をも魅了する。
一方、その「項羽」の敵であった「劉邦」は、王にのし上った後は、呂后をぞんざいに扱い、ほとんど詐欺のような手段で娶られてしまった呂后は怒り心頭に達する。
しかも、それは劉邦の死後。
おもしろいのは、呂后がすさまじい行為を行ったのは、「女としての敵」だけで、劉邦没後、実質的ににぎった政権ではすばらしい治世を行ったとされる。
非常に理路整然としているのだ。(そうか?)




他に「楊貴妃」、対照的な魅力で王を虜にした「趙姉妹」。
だれにも女だと気付かせず、戦士として何年も戦い続けた「木欄」は、著者をがっかりさせる結末に?
日本の女帝が天皇の娘であるのに対し、中国史唯一の女帝「武則天」、先の「呂后」、「西太后」らは先帝の未亡人であって、皇族の出ではない。
天子の寵を得ることに、意外にも身分が関係なかったことにも驚く。



中国の歴史を彩った女性達の生き様を著者の目で観察しています。



そういえば、昨日観た映画は、「王の男」。[rakuten:tamoa:809288:detail]

こちらは、16世紀初頭の朝鮮。
皇帝の寵愛を受けた女形芸人コンギル。
旅芸人たちは、コンギルとともに宮廷お抱えとなるのだけれど、韓国史上最悪の皇帝の悪政も女たちの確執が根底にあるといえる。
ザコン気味の皇帝ヨンサングンだって、犠牲者みたいなものだ。
検閲で削除された7分のシーンも盛り込んだディレクターズ・カット版。
綱渡りの芸がすごいです。