山本文緒:「恋愛中毒」「ブラックティー」

「人を深く愛さないようにしよう」
「人を愛するくらいなら、自分を愛するようにしよう」

ここだけ読むと、少女漫画系のお花が舞い散る恋愛小説?と思ってしまうかもしれませんが、それはマチガイ。



たとえば、悪質な性犯罪を犯してしまった人が「今後は改めるように」と言われ、肯いたという場面が新聞に書かれていたりもしますが、「そんなことほんとにできるの?」と思ってしまう。
もちろん、社会生活において人の尊厳を認識し、そういった性癖で他人に迷惑をかけるなというのが真意だという解釈はできるんだけれども。
赤が好きなのに、今度から赤は嫌いなフリをして、青を好きになりなさいなんて、ものすごく大変なことだ。




人を愛する方法には正しいもマチガイもないと思うけど、強くてもまっすぐでも、受け入れられにくい愛し方があるということは私も知っている。
人の愛し方(この場合、対象は異性ね)において、私はあまり自信はないけど、相手の立場で考えることを忘れちゃいけないんだろなと思ってる。
でも、そんな思いでさえ、主人公の愛し方を凶器に変えてしまう。




「恋愛中毒」というタイトルではあるけれど、「恋愛ばか」の話ではありません。
知性があり、生きるバランスを心得ている女性読者たちが、この本を読んで「主人公の気持ちが分かる」と言っているらしい。
吉川英治文学新人賞」受賞。



あいかわらず、負の心理描写が写実主義。繊細で鮮明で、自分の中にあるものと重ねずにいられないところがコワイ。
TVドラマはどんな感じだったんだろう?



ブラック・ティー (角川文庫)

ブラック・ティー (角川文庫)

これより早い時期に書かれた「ブラックティー」は、まだそこまで写実的ではないけど、「正気と狂気」「日常と軽犯罪」の接点がリアルで、思わずいつか自分が犯罪者になってしまうんじゃないかという恐怖が味わえます。
物忘れを題材にした「ニワトリ」は、ドキリとする人も多いのでは?