消えた受賞作 直木賞編

受賞した作品はもちろんだけど、著者は「直木賞」の存在にとり憑かれたのだそうだ。
この本には、直木賞のうんちくも書かれているけど、なかなか手に入らない作品自体もいくつか掲載されている。


直木賞には、姉妹的な賞として「芥川賞」がある。
比較すると、


芥川賞:短編が多く、全受賞作の全集がある。純文芸対象。
直木賞:全集どころか、絶版などで手に入らない作品がかなり多い。大衆文芸対象。



「純文芸」と「大衆文芸」の線引きについては、賞を設置した時から議論があり、あいまいだったこともおもしろい。
松本清張の作品も、直木賞候補に挙がっていたのに、途中から芥川賞の候補になってしまったり。


小説の受賞は、まず候補に挙がった段階で著者に、選ばれたら賞を受け入れるかという確認がいくんだね。
だから、賞を与えられたのに辞退する人はおらず、辞退するなら候補の段階になるのだとか。
一切の受賞を断った山本周五郎の一貫した想いには、作家魂を感じる。
一方で、賞をとりたくてとりたくて仕方なかった太宰治の必死感は、情けなさよりも彼の作品に通じる人間臭さを思い起こす。



直木賞の受賞数がはっきりしていないのは、第1回と第3回の選考の混乱のため。
連載途中で受賞したものもあり、直木賞の歴史はほのぼのとしたところも多く、なかなかおもしろいね。