トレーダーの生理学

トレーダーの生理学

トレーダーの生理学

精神がストレスを感じると、体に変化が起きるのは、分かる。
だけど、人間の感覚が察知した状況に、身体が適したホルモンが分泌することで、精神状態が影響されるという逆の流れがあるのだそうだ。


過度な緊張の瞬間を体験するトレーダー。
頭の中では状況に対する対応は整理できていても、身体はその瞬間に、「このストレスが続くと大変だ」と判断し、体力(=燃料=グルコース)と、それを燃やすための酸素と、それらを運ぶための血液を増やすべく処理を始める。
また、気管支と喉を拡張させて、燃料を燃やした時に排出される二酸化炭素をどんどん出さないといけないことも察知する。
必要に応じて、筋肉・肝臓・脂肪細胞に蓄積されているエネルギーを分解する準備も。
免疫系の細胞は、皮膚などの傷つきやすいところに行って、ケガや感染をした時の応戦準備にはいる。
神経系は、体中の血液の配分を計算するので、胃腸への血流が減り、胃がキュッと締め付けられる。
呑気に生殖活動をやってる場合ではないので、生殖器への血流も減らして、その分を筋肉へ血液を送りこむ。


こんな変化を経た後、状況が良い方向へ動き出すと、ステロイドホルモンが身体のエネルギーをエンジン全開にする。
本人は、エネルギーが満ち溢れた状態になる。
ハイリスクなことも乗り越えられるという根拠のない自信にとり憑かれる。
1つが上手くいくと、果てしなく手を出してしまう。
失敗しても、取り返す自信が湧いてくる。


この変化が、バブルを作りだした原因の1つではないかという考察がこの本に書かれているよ。
著者は、ゴールドマン・サックスメリルリンチドイツ銀行に勤め、ウォール街のトレーダーとして実際に活躍した経歴を持つ。
そして、バブルの崩壊も体験。
その時の人々の行動を分析すると、トレーダーや投資家の脳と身体の変化が起こした判断や処理が経済を動かしてしまったことが分かると。
金融市場で働く「勘」は、どのようにして生まれてくるか。
おもしろい実験もたくさん。
「スプレッド取引」についての解説など、手品のような金融手法について分かりやすい説明も。


金融リスクと生理学を結び付けて、見えてくること。