美術品はなぜ盗まれるのか

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い

実際に起きた絵画盗難事件における追跡と奪還レポート。
10年にも及ぶ、静かながら熱意の賜物である帰還への闘いを詳細に描いている。
1994年7月にテートギャラリー(英)所蔵の、19世紀イギリスの巨匠J・M・W・ターナーの絵画2点が、貸し出していたドイツの美術館から強奪された。
盗まれたのは、「影と闇」「光と色彩」の2点。



内部でどんなやりとりをし、犯人組織からどんな要求があったのか。
また、作品帰還の瞬間の当事者も驚くような展開。
国際的な追跡劇となっていて、関わる組織も多数で相関図(本に掲載)を見てもピンとこない。犯人組織の窓口となる?弁護士は、私にとっては不可解な存在だけど、戻ってくる絵画が「本物」で「無事」であることが最大ポイントであるので、キーパーソンの扱いが慎重になるのは理解できる。



そもそも世界的に有名な美術品を盗むことの目的は何か?
そう簡単に転売もできない。
人の家にはいるコソ泥とは、全く異質だ。
と思いきや、答えはシンプルだった。



お金。




捕まるリスクが高い上に、すぐに換金できない一方で、犯人探しの「懸賞金」はどんどん上がるし、盗まれることで作品の価値がぐんと上がることも算段している。
お金が欲しいだけなら、知名度の低い二流の美術品を盗むのが賢明なのに、こんなにも有名な作品に手を出す価値がそこにあるそうだ。
美術品が「芸術」から「現金のための担保」となってしまうんだね。
確かに、本に出てくる金額がすごい。


絵画にかけられている「保険」も通常の認識と違うみたい。
額も大きいけど、支払われるタイミングやお金の使われ方。
盗まれた作品の「価値」についても、「え〜?あれって、そんなにすばらしい?」みたいな議論まで始まるし。



世界で起きた他の絵画盗難についても触れているのだけど、ケガ人を全く出さずに奪った泥棒に対しては、大衆はロマンさえ感じてしまう。
むしろ、盗まれた美術館の管理が非難を浴びたりするんだね。



価値を決める基準が難しい美術品ならではの、犯罪のしくみ。