電話通訳〜息づかいから感じる日米文化比較〜

電話通訳―息づかいから感じる日米文化比較

電話通訳―息づかいから感じる日米文化比較

著者は日本人なのだけど、アメリカで「電話通訳」として働いていた。
病院、警察、企業、クレジットコールなどにおいて、言葉の壁があって状況打破できない時に、両者の間にはいって通訳をする。
アメリカで急病に罹った日本人と病院スタッフが、話が通じなくて困っている場合などに、この電話通訳が呼び出されるのだ。
あくまで通訳だから、双方の言葉以上に自分の言葉や感情を付け加えるのはご法度なのだけど、ことに右脳で動く傾向のなる著者としては、会話の後ろにある背景や知らざる過去・未来の展開に想像が及んでしまったりもするらしい。
この本では、実際に体験した日米の差(統計の数字に表れない差!)が描かれている。
電話の向こうの英語を話す者と日本語を話す者との差はもちろん、その状況に関わっている第三者や社会構造が浮き彫りになってるのだ。




あるケースでは、ホームステイ先の奥さんと滞在していた日本人男子学生が駆け落ちしてしまった。
通訳に電話をかけてきたのは、ホームステイ先のご主人。
かけた先は、日本の男子学生の父親。
アメリカらしく、淡々と事の核心に踏み込み、様々な感情があるはずなのに、問題解決(このケースでは、奥さんが家庭に戻ること)のために働きかける。
男子学生のクレジットカード(日本の両親が払う)で二人は駆け落ち生活をしているようなので、まずはカード利用を止める手続きをしてほしいとご主人は提案。
もはや呉越同舟といってもいいほどの冷静な判断だ。
一方、男子学生の父親は、カードを止めたら息子が困ると言っただけで沈黙。
子育てに関わっていない日本の父親には打開策など浮かばなかったのだろう。
ところが、アメリカでは、沈黙は「了承」を意味するらしい。
ガンガン話を進めようとする。
父親は困り、母親に電話をかわる。
散々、ホストファミリーのご主人が悪いということを訴えてきた揚句、「息子から連絡があったらお知らせしますから!ガチャン!」である。
子どもがしたことで親である自分が責められているような感情が湧いて、逆ギレだね。
これはアメリカ人には理解できないことだそうだ。



こんな感じで、言葉が通じない以前に、見えない壁がある。



通訳電話の中で、米国はとにかく左脳的に事務的に話しをすすめる一方で、日本人はともすれば、言葉を理解してくれる通訳に状況からずれた質問を始めたり、泣きごとを言ったり、愚痴を聞かせたり、揚句のはてに「私、どうすればいいんでしょう?」とくる。
自分が質問したいことも分からないパニック状態になってしまう。
その間どんどん料金がかかっていくのも気になる通訳としては、この板挟みに不思議な感覚を抱くのだ。
そんな際のアメリカ側の対応もおもしろいよー。



また、お人よしで、遠慮が染みついている日本女性は、犯罪における絶好のカモらしい。
巻き込まれた若い女性は、投獄までされ、保釈金の話しのために電話通訳が呼び出された。
この事態も通訳する会話や相手の息づかい、沈黙の様子が情報となっていろんなことが分かってくるらしい。(妄想もかなりはいるらしい)
逮捕に関連して、ミランダ警告についても触れている。
よく海外ドラマなどで、逮捕される人に対して警察が「黙秘権を使ってよい。弁護士をつけることができる」というアレです。
スペイン語を使う地域にいたミランダさんは、強姦で逮捕されたのだけど、すぐに自白したので拷問もなく、すんなり解決。
しかーし。
ミランダさんは考えたのだ。
「尋問は全て英語で、こちら側への配慮がないというのに、あんなにペラペラと自白する必要があったのだろうか?」
それを後押し市民団体などもあり、結局、黙秘権をちゃんと伝えなかったという憲法違反とされ、ミランダさんは釈放されたという大事件に発展。

「弁護士をつけられる」という部分については、ギデオンさんが関わっている。
弁護士を雇うお金がなかったので、防衛は自分自身でやることに。
当然、敗訴。
こちらは、タイプライターさえ使わず、ギデオンさんが獄中でエンピツでしたためた、「お金がない人に弁護士を!」という直訴状を直接最高裁に持ち込んだというユニークなケースだったらしい。