となりのクレーマー

となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ)

となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ)

苦情処理の経験はありますか?
私は、対顧客ではないけれどあります。
しかも、明らかに嫌がらせタイプのもの。



著者は、西武百貨店でのクレーム対応部署である「お客様相談室」で勤めた後、コラムや講演を多くてがけている人だ。
西武なので、西武ライオンズが負けると「一体、どうなってるんだ!」という苦情まであったらしい。
どうなってるんだ!は、キミでしょう、クレーマーくん。





とは、もちろん言えない。



一般的なクレーム対応の世界では、苦情とクレームは完全に分けているそうだ。
苦情・・・不満があるから申し入れる
クレーム・・・被害があるから、補償を要求する





クレームなんて相手にしないで、お金で済むなら払ってしまった方が時間も労力も無駄が無いという強気の対応の落とし穴。
「文句を言えば、払ってもらえる」という話が広まると、同じようにクレームをつけてくる人が増えるというのは想像ができるけど、どんなに相手が理不尽なクレームや要求をよこしてきていても、対応が悪いとそれはあっという間に世間に伝わってしまう。
時には、経営が傾くほどの影響となるのだ。



こんなクレームもあるらしい。





10年前に買った服が糸が切れて着れなくなった。
不良品だったようだから、弁償してほしい。





もちろん、もうレシートもなく、この店で買ったという証拠も無い。
だけど、まずはお客様の申し出を受け入れて調査し、冷静に対応する。
クレーマーとの応戦は、数ヶ月にも及ぶこともあるそうだ。
おもしろい?事例がたくさん掲載されてます。
でも、決して、クレーマーを退治した武勇談としてばかり書かれてはいない。
著者がどんな事例に関わって、お客さんを観察し、クレーム内容の本質を見抜き、それに添った誠意をどう表せるようになったかを書いてる感じだね。




危険を回避するのと、証拠を残すために、クレーマーとの対談には必ず複数で行く。
何時間も関係のない話を聞かされ、粘り強く粘り強くジリジリジリジリとお互いに弱みをつかもうと持久戦にはいる。
時にどちらかが地雷を踏んで爆発が起きたりする。
でも、ただ頭を下げ続けるのではなく、ここ!というタイミングで急に一瞬「わたくし」を「俺」に変えて声を荒げてみたりする。
眉間に皺をよせてこまったちゃんスタイルなど、演技力も必要だ。
誠意を尽くすが、相手に振り回されない毅然とした態度が大事と。
過程の1つを間違えると、理不尽な多額の弁償金を払わされてしまうというスリリングな場面もある。
しかも、クレーマーは、常習者も多く、学習しているから手ごわいそうだ。
ライバルである他社とも、こういったクレーマー情報は交換しているというのはおもしろいね。





「苦情は宝の山」とは言うものの、クレーム処理をする担当者だって人間だ。
時には、うおーっと雄たけびをあげたくなる瞬間もあろう。
気が狂いそうになる時だって、たくさんあるに違いない。
それが続けられるのは、「何を苦情処理のゴールとするか」をちゃんと認識してるからだそうだ。
企業ごとに、そして部署ごとにゴールは違うだろうけれど、著者は百貨店だから、ゴールは「お客様を離さないこと」らしい。
苦情を解決するだけでもだめだし、お客様の満足感を向上させるだけでもだめなんだって。
最終的に、そのお客様が、再び来店してくれて初めて、処理成功となると。
「文句のはけ口」という認識では、たしかにやってられないよね。



仕事でなくても、理解する気持ちがない人に理解してもらうというのは至難の技。
その究極のプロなんだね。お客様相談室は。