お目出たき人

お目出たき人 (新潮文庫)

お目出たき人 (新潮文庫)

タイトルとは違って、この時節にはあまりそぐわない内容。
何度か繰り返される「自分は女に飢えている」。
「女」という意味が立派なものなんです。
女からすれば、喜ばしいくらい。
一見、ストーカーっぽいけど全く違うよ。
相手に迷惑をかけないし、相手が心から望んで自分のところへ来てくれることを第一としているからね。




見初めた女性を想い続ける話。
言葉を交わしたこともない。
1年以上会う(一方的に垣間見る)ことさえなくても想い続ける。
どんどん理想化されて、二人は結婚するに違いないと心から信じていられる。
両親にも結婚するからって言っておいた。
自分の中の崇高な哲学や理想が、逆に自分を外側から覆いこんで滑稽な姿にさえなってしまった。
友人にも言われてしまう。
「君のようなのは女に好まれない」




あーあ。





大体、恋の話であるのに女性側の気持ちなんてほとんど出てこない。
全てが主人公の想像や憶測だけ。
哲学の上にいる自分だけが恋の主人公となっていて、さらに「お目出たき人」と称しているのは第三者ではなくて、主人公本人なんだよ。
この時点で、イライラしてこの本を床に投げつける女性読者だっていそうなものです・・・




当たり前すぎる結末に、主人公が抱く想いがまた・・・





この本の構成がおもしろくてね。
「附録」と称してついてる文章が5つあるのね。
1つは、この主人公自身が自分の恋を題材にして書いていると思われる小説。
1つは、上の小説を書いている主人公をそばに立って見ている男女の会話。戯曲の一部みたい。



主人公の周りに鏡をたくさん並べて、その鏡の中に映る、鏡に映った姿を追うような感じ。
「お目出たき人」本文の「とても客観的な超主観」な感覚を更に浮き彫りにしているのが不気味なほどです。