富士山頂
- 作者: 新田次郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1974/07/25
- メディア: 文庫
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先日ココでご紹介のあった本です。
<紹介文より>
『富士山レーダー建設にまつわる準ノンフィクション。
役所仕事に群がる電機メーカの戦略と、それにカラダを張る主人公。(建設計画の苦労話もあり、論点はこれだけではないのですが。)主人公は新田次郎本人なので、生々しいです。』
官庁と企業。
また、それぞれの中の部署同士の引き合い。
現場と作戦会議室。
作る人(現場でモノに直接関わる人)と営業の人(会社を背負っている人)。
富士山には、色んな登り方があるけれど、自分をどの立場において読むかで、この本の頂上へのアプローチは異なりそうです。
会社勤めをしたことがある人なら、どこかに自分が体験したものが見つかって、ニヤリとするのではないでしょうか?
そして、官庁に絡んだことのある人なら、「おぉ!それはっ!」と吠えるのではないでしょうか?
官庁・企業の戦略的な話が大筋ではあるけれど、仕事のロマン?があるとすればコレだろうと思う。
決して、きれいごとでは済まないロマンだけど、こういう仕事は人生に何度もないし、誰でも経験できるものではないし、関わってしまうと生活全てを投入せざるを得ないほどのもの。
私は今、少し法務関係の勉強をしていて、商法だとか労働基準法だとか36協定という話も出てくるんだけど、そんなものを超越したところに(法律を無視しているということでなく)このプロジェクトは展開されているのです。
こういう場面なら、たいてい「失敗したら、だれが責任とるのか」という言葉が飛び交いそうなのに、作者が意図しているのか、その言葉が直接出てくることはほとんどありません。(報道関連のエピソードにちょっと出てくるけど)
登場する企業「相模無線」の動きには、唸るわ。
レーダーが完成して、美しい富士が秘めた恐ろしい自然の洗礼を受け、関係者たちはやっと富士レーダーの呪縛から解かれたかのように見えます。
しかしながら、山から降りた下界には人事という乾いた網がはられているのです。
小説家という職業も持っている主人公の心の動きもおもしろい。
たまーに出てくる奥さんもいい味です。
殺人事件も警察も出てこない準フィクションで、著者も書いているように私小説に近い。
だけど、こわいものがたくさん出てきて、スリリング〜。
例えば、ロケットや人工衛星を作る過程でもこのようなドラマが繰り広げられているのだろうか?と、国を挙げての事業に対して、妙な興味がわいてしまいました。
いい本を紹介してくれて、ありがとう。
あといくつか新田次郎の作品を読んでみるつもりです。