エンジェルフライト 国際霊柩送還士

エンジェルフライト 国際霊柩送還士

エンジェルフライト 国際霊柩送還士

海外で亡くなった方を国境を越えて日本に帰したり、日本で亡くなった外国の方を故国に送り届ける。
それが国際霊柩送還士の仕事。
日本で初めてこの仕事を手続きを含めて一貫して請け負うようになった会社「エアハース」のドキュメンタリレポがこの本。
個人もニュースで取り上げられた事件の人も、この会社が送り届けていることがかなりあるらしい。


生前の姿とはかけ離れた姿で帰ってきた遺体。
国や地方によって遺体の扱いは異なり、解剖で開けた部分をホチキスで留めただけだったり、腐敗処理がほとんどなされておらず、体液があふれていたり。
頭蓋骨が砕け、眼球を支える脳もなく眼が沈み込んでいたり。
誰もよく知らないし、途中で誰にも見られないことが多い遺体の搬送なので、悪質・悪徳業者も多いとか。
棺に武器や密輸品を入れたり、逃亡している犯罪者が自分の身代り遺体を送って、自分は死んだと思わせて逃げ切るとか。
現地で故意に内臓を抜いてしまったと思われるケースも。
家族はどんな姿でも一目会いたいと思うけど、葬儀で他人には見せたくない姿に変わり果てているのだ。



異国からの移送に関わる大変な手続き。
深夜であっても空港で帰国した遺体を待ち受け、パスポートの写真を見ながら、職人技の技術で、まるで眠っているかのような血色の良い姿に戻す。
そして、自宅へ帰らせてあげる。
葬儀で、みんなとお別れをさせてあげる。
それが仕事。


何よりすごいのは、こういった「手続き」と「作業」を支えるのが、亡くなった方と遺族に寄りそう気持ちであって、「ビジネス」や「サービス」を超越していること。
映画「おくりびと」なんて、まだまだ「きれいごと」に見えると著者。
こんな本を出してもらえた会社なら、広告になるので喜びそうなものだけど、エアハースはそうでもない。
取材も決して遺体や遺族に失礼や迷惑がないことが条件で、憶測で勝手なことを書かないようにと厳しい。
女性副社長が肝入りなのだ。
遺体搬送の会社がここまでするのかと思うほど、遺族の心に寄りそうので、遺族もエアハースに心を開く。
何度も何度も「ありがとう」と言うそうだ。
でも、エアハースの副社長は、「早く私たちのことを忘れてほしい」と言う。
エアハースのことを思い出すことは、大事な人の死を思い出すつらいこと。
だから、早く忘れて、前に踏み出してほしいと。


手軽に海外旅行に行ける時代になったけど、海外旅行傷害保険には必ず加入しておくべきという教訓も書かれてる。
本人が海外で亡くなると、保険会社がエアハースのような会社に遺体搬送を依頼するらしい。
個人での手続きは大変で、伝染病の有無の確認などもしなくてはならない。
保険に加入していれば、こういった作業を全てやってくれるんだね。


死の在り方を、亡くなった者と残された者双方の視点が考える。
開高健ノンフィクション賞受賞作。