ぼんち

ぼんち (新潮文庫)

ぼんち (新潮文庫)

裕福な家の息子が、ただ放蕩を重ねるのは「ぼんぼん」。
放蕩を重ねても、義理人情と誇り、粋、品性、芸術・・・そんなもので彩った、生き方に帳尻をきちんと合わせた遊びをするのが、大阪の「ぼんち」。



老舗足袋問屋の一人息子は、死に際の父に



「ぼんぼんになったら、あかん。ぼんちになりや。男に騙されても女に騙されてはあかん。」




という言葉を遺される。
この船場商家は、3代ほど跡取り息子に恵まれず、娘が有能な番頭を婿養子にもらってきた。
ゆえに、男は女に頭があがらない。
粛々と商いに精を出すのみ。
夫婦の交わりだろうが、なんだろうが、女主導。
すさまじいまでに厳しい家族制度や特殊な風習が、日常生活に満ちている。





少年だった喜久治は、ある日「うちって、ヘン。他の家と違う」と気づく。
男たちが常に女たちの顔色を伺っている家庭が他にないことを知り、その後友人に連れられて、外の女性を知る。
外の世界では女性は、こんなにも自分にやさしく、温かく、かしづいてくれる!




しかーし。
女遊びは、やはり家の女たち(祖母と母)にしっかりバレてしまい、そんなに女が必要ならと結婚させられるも、子どもが生まれたら、因縁つけて離縁させられた。




で、女遊びに戻るわけである。
が、大阪船場商人の高貴な文化では、妾はいない方が恥ずかしいらしい。
「妾も囲えないほど、みみっちいのか」ということになるそうだ。
芸者遊びの文化もすごい。
お金をバラまく、バラまく。芸者さんたちも一流どころ。気遣い・心遣いも一流だ。
妾に関する決まりごともすさまじい。
中継ぎなく直接電話をかけてはいけない。
本家にごあいさつに行ったりもしなくてはならないのだが、衣装はもちろん、あいさつの仕方、帰りは新品の履物を出すなどの細かいしきたりがある。
子どもができても、里子に出さなくてはならない。
しきたりの厳しさという点では、今の皇室の数倍すごいことになってるんじゃないかな。





そんな喜久治を5人の女性が巡る。
最後の場面は、タイガー・ウッズも吹っ飛びそうなものだけど、喜久治に大事にされ、愛情を信じて、突き抜けて生きた女性たちが清々とした感じにも受け取れる。