ムンク展(国立西洋美術館)

uiui2008-01-09


「叫び」で有名なノルウェーの画家。
「携帯でムンクという言葉を変換すると、人が叫んでいる絵文字が出る」という友人からの情報があったので試してみたら本当だった。

1点ものだと思っていた「叫び」が、以前見た画集に、似たような絵(場所が同じとか角度が違う)がたくさん載っていて驚いたことがあって、年中叫んでいる人というイメージがあったけど、ある意味正解かも?


何十年も繰り返されてきた彼のテーマは、
「死」
「生の不安」
「愛の開花と移ろい」


どの絵も描かれている人物の顔がよく分からない。
目も骸骨のくぼみのようになっているものが多い。妖怪っぽい。
テーマがテーマだけに、顔を描くのが怖かったのかな。
表情が判然としないのに、キャンバス全体が顔になって伝えてくる感じ。


私の隣にいた若い女性は、線の粗さと多さ(エンピツ画)を見て、





3歳くらいの男の子(なんだか美術に通じている)は、

「ちゃんと色塗ってない」





カップルにも

「真面目に描く気なさそうやね」






散々な言われようである。





今日見た中では、幼少期から鬱病を病んでいる女性の目だけがしっかり描かれていたなあ。
(「メランコリー ラウラ」)
亡くなった母親が横たわるベッドを描くにしても、その表情は見えない。(「死んだ母親と子ども」)
この絵は、母親の死後20年以上経って描かれたとのことで、ムンクはそれだけの月日をかけて、やっとつらいその死を追認できたのかも。
母や姉を亡くした自らの生い立ちを「病魔と狂気と死がそばにあり、黒い天使たちがゆりかごをゆらしていた」というほどなので、フィヨルドの高く上がらない太陽のような気持ちを抱え続けていたんだね。
ちーっとも楽しそうじゃないカップルの絵の周りにまた更にくらーい表情の女性がいたりしてね、1つの場面に自分のバックグラウンドと過去・現在・未来が乗ってくるから笑ってられないのかなと思う。
「太陽」の光がこちらに向かって3Dみたいに伸びてくる様子は、明るさへの渇望が表されているかのよう。
人間に対してやさしい人なのじゃないかな、ムンクは。
陰鬱なものを抱えていても決して破壊的ではないもの。






他の画家と違うのは、背景(場所の設定)が同じだったり、登場する人物が似ていたりする絵がとてもたくさんあること。
1つ1つの作品が独立していず、呼応し、共鳴する役割をしていることを示してるんだね。
「フリーズ」とは、帯状の建築装飾のことをいうのだけれど、ムンクはこれらの共鳴しあういくつもの作品を同じ場所(部屋)に並べる事で、「生命のフリーズ」「労働者フリーズ」など装飾性も高い壮大なプロジェクトに挑戦している。



リンデというお医者さんは、ムンクに自宅用のフリーズ製作を依頼した。
特に「子ども部屋は、子どもというテーマをちゃんと意識して描いてくださいよ!接吻とか抱擁とかダメダメ」と念を押されてるのに、描いたのは、






ベンチで抱擁するカップルだらけの公園
(「公園で愛を交わす男女」)






結果、受け取り拒否されちゃった。
私だったら、最初からムンクに子ども部屋用は頼まないけどなぁ。




好きなのは、「吸血鬼」。(背景が暗い方)
抱擁とはやや違う男女の自然なふれあい方。
タイトルのせいで、イメージが一人歩きしてしまったとムンク自身は言っていて、私も深読みせずこの絵を受け入れてしまおうと思ってます。